ホーム > 日本食育大学未来学部 >
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
小判大介君は天道ゆかりさんと恋に落ち、農業を始めると
同時に結婚しました。
天道ゆかりさんには、結婚を急ぎたい理由がありました。
娘を支配しようとする母親からの逃亡でした。
母親は、ゆかりさんが農家と結婚することにもひどく反対
してたのです。
◆◆◆
「私たちの結婚に反対してるんだから、新居まで遊びにくるはず、ないよねー」
ゆかりさんはそう考えていました。
事実、しばらくは母親から何の音沙汰もありませんでしたし、ゆかりさんが母親に連絡することもありませんでした。
ゆかりさんと大介君の2人は、ある意味、安心してイチゴ栽培に没頭しました。
しかし逃亡は長続きしませんでした。
ある日とうとう母親が、2人の住むテケテケ村までやってきたのです。
母親は、何ごともなかったかのような顔で、ふたたび娘を支配しようとしました。
新婚夫婦の「愛の巣」(←書いてて恥ずかしくなる表現ですが)に乗りこみ、細かくチェックを入れはじめました。
ゆかりさんの服。食器。家具。読んでいる雑誌。
あれもこれもケチをつけて回りました。
そのうち大介君のほうにもケチをつけだします。
大介君はわりと今風の青年でございまして、ゆかりママが想像していた農家のイメージとはだいぶ違っていました。
大介君のスタイルはこんな感じ。
ゆかりママが描いていた農家のイメージはこんな感じ。
しかしそれはそれで気にくわなかったらしく、ゆかりさんの母親は大介君に嫌味をいいはじめました。
僕ならこのへんでキレるところですが、キレなかった大介君は立派です。
彼はニコニコと、ゆかりママに接していました。
家のなかのチェックを終えると、母親はティータイムにしたいと言いました。
ゆかりさんは勇気をだして言いました。
「ママ。ティータイムもいいけど、その前に見るものがあるんじゃない?」
「外のビニールハウスのことだったら、興味ありません」察しのよい母親でした。「虫はきらいです」
「娘夫婦が一生懸命にイチゴを作ってるのよ。見てくれてもいいじゃない。そういうところを見てほしいのに」
ゆかりさんと母親は、ビニールハウスを見る見ないで口論しました。
結局、娘の剣幕に母親が珍しく折れて、3人はイチゴを育てているビニールハウスに向かいました。
異変が起きたのはそのときです。
ビニールハウスの入口付近でたまたま草を食んでいた山羊のメリーが、突然、ゆかりさんの母親の頭を後ろ足で蹴ったのです。
メリーはおとなしい山羊のはずでしたが、虫のいどころが悪かったのでしょうか?
ゆかりママは打ちどころが悪く、そのまま帰らぬ人となりました。
◆◆◆
ゆかりさんと大介を引き合わせたのは、実は僕です。
ゆかりママのことも知っています。
(怪しい関係ではありません)
ですので、告別式の案内は、当時東京にいた僕のところにも届きました。
告別式はテケテケ村で行われることになっていました。
仕事をいくつかキャンセルし、僕はテケテケ村に向かいました。
東京から7時間もかかりました。
意外にも告別式には大勢の参列者がいました。
ゆかりさんと大介君は、テケテケ村に移り住んでまだ日が浅いです。
ゆかりママは東京から来ています。
この2つを考えると、テケテケ村で告別式をして、参列者が集まるとはとても思えません。
なのでこの人数は不自然でした。
もうひとつ、妙なことがありました。
ゆかりさんと大介君は参列者から次々と声をかけられていたのですが、
女性の参列者は決まってゆかりさんに声をかけ、ゆかりさんは必ずうなずき(=首を縦にふり)、なにか答えていました。
男性は決まって大介君に声をかけ、大介君は必ずかぶりを振り(=首を横にふり)、なにか答えている様子でした。
何の話をしているのでしょう?
さすがにその日はゆっくり話しかけるわけにはいかなかったので、僕はテケテケ村に一泊し、翌朝、大介君を訪問することにしました。
翌朝、大介君のビニールハウスをのぞくと…
早朝から大介君が歩きまわっていました。
畝(うね)を作っているみたいでした。
昼間はハウスのなかが耐えがたい暑さになるらしく、作業は早朝が多いのだそうです。
僕は彼が作業の手を休めるのを待って、昨日の疑問を口にしました。
すると大介君は言いました。
「あんなにたくさんの人が来るなんて、僕も驚いてます。でも女の人たちは僕のことを胡散臭そうにジロジロ見るばかりで、ぜんぜん話しかけてくれなくて。でもゆかりに対しては同情してくれてるみたいで、『お母様、お気の毒ねえ』なんて言ってくれて、ゆかりもうなずいてお礼を言ったりしてました」
「そっか。でも男性はみんな、きみ(大介君)に話しかけてたみたいだけど?」
「そうなんです、松宮さん。村の男の人はみんな僕に好意的で、こう言ってくるんですよ。『大変だったね。これからは仲良くしようや、小判ちゃん』。小判ちゃん、て呼ばれてるみたいです」
と、大介君は少しうれしそうに言いました。
「村に溶けこめそうだね」
「はい。義母が亡くなったのは悲しいことですけど、友達が増えました。これで仕事しやすくなるといいんですが」
「きみに話しかけてた男性陣のことだけど、きみは首を振って頼まれごとを何度も断っているようにみえたけど、あれはなに?」
「あれはですね」大介君は答えました。「みんなから、山羊のメリーを何日か貸してくれって言われてたんです。でも断るしかありませんでした。年内は予約でいっぱいになっちゃってて…」
農業や田舎暮らしに興味のある方は是非のぞいてみてください。
「プチ農業スタイルを知的に応援するオンラインストア」
http://astore.amazon.co.jp/agriwellness-22