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2007.06.20 21:47

ホケンシドー年代記 その1

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◆◆◆

チーフの松宮園生です。

40歳以上の皆さんへ。
あと10か月です。

なにが10か月かというと。

あと10か月したら、皆さんのところに健康保険組合からたぶんこんな通達が来ます。
「○月×日に健康診断を行います。40歳以上の方は、全員かならず健康診断を受けましょう」

今までもそういう通達が来ていると思いますが、来年はもっと切羽つまった感じで、こういう通達が来ます。
「頼むから健康診断に来てくれ。キミが来てくれないと、オレたちが困ったことになるんだ」

なぜかというと、国の命令でこういうことが決まったからです。

あー。えへん。
全国 1600 のかわいい健康保険組合たちよ。
わたしは厚生労働省である。
ひざまずいてよ?く聞け。
日本はメタボ大国になりつつある。
アメリカやイギリスほどひどくはないが、このまま何もしなければ彼らの仲間入りだ。
なんとかせねばならん。
そこでだ。
諸君のところに加入している大勢の組合員、ようするに保険証を持ってる人たちのことだが、諸君の力で内臓脂肪を減らしてほしいのだ。
自分のところの組合員の内臓脂肪は、自分のところで責任を持て、ということだ。
メタボを減らした組合には、苦しゅうない、褒美をとらす。
メタボを減らせなかった組合には罰金を科す。
来年の4月から、このメタボ撲滅作戦を開始する。
以上である。
諸君の健闘を祈る。

「宇宙戦艦ヤマト」を知っている人は、ガミラスのデスラー総統が軍人を集めて演説しているところを想像してください。

デスラー総統(=厚生労働省)の言葉に、集まった軍人(=健康保険組合)のなかからざわめきが起きました。
(そんなこと急に言われたって、できっこねぇよ…)
(無理だよ…)
そんなささやきがあちこちで交わされます。

ひとりの軍人が立ちあがって言いました。
「総統陛下。いや、総統閣下。いや、総統殿下」
となりの軍人が慌てて耳打ちしました。「総統は閣下だよ。閣下」
「総統閣下。ご命令とあらば必死にやりますが、どのようにやればよろしいのでしょうか?」

デスラー総統は気を悪くしたようすもなく、答えました。
「うむ。そういう質問が出ることは予想しておった。では教えてしんぜよう。まず、加入している組合員全員に健康診断を受けさせるのだ」
「閣下、それは今までもやっておりますが…」
「そうではない。『特定検診』という名前のついた、メタボ専門の健康診断をするのだ」
「はあ…」
「40歳以上の者は、すべてこれを受けさせるのだ。全員だぞ、全員」
「閣下。ぜ、全員でありますか?」
「全員だ」

またもや軍人のあいだでざわめきが広がりました。

「しかし閣下。全員に受けさせるということは、その『特定検診』を受けなかった個人は命令違反で射殺してもよいのでしょうか?」
「ばかもの」デスラー総統は言いました。「射殺してよいわけがなかろう。『特定検診』を受けるか受けないかは、本人の自由だ」

さっきよりはるかに大きなざわめきが起きました。
(意味が分からん…)
(全員に受けろと言っておきながら、受ける受けないは自由? どういうことだ…?)

デスラー総統はざわめきが収まるのを辛抱強く待ち、それから言いました。
「受ける受けないは個人の自由だ。ガミラス憲法により、個人の自由は保証されている。しかし健康保険組合である諸君は、全員が進んで受けるように、あらゆる努力をせねばならん。そういう意味だ」

今度は、その場がしん、と静まりかえりました。

デスラー総統は続けました。
「まだ先があるぞ、諸君。『特定検診』を受けてメタボだと判明した者がいたとしよう。おそらく、全体の何割かはメタボに違いない。メタボ人間が見つかったら、保健指導をするのだ」
「ほ、保健指導とはなんでありますか、閣下?」さっきとは別の軍人が立ちあがって言いました。「今までそんなことはやったことがありません、閣下」
「ではこれから研究したまえ。保健指導とは、メタボ人間を相手に食育をしたり、運動させたりすることだ。生活トレーナーと言ってもよい。この指導のことを『特定保健指導』と呼ぶことにする。諸君は『特定保健指導』のプログラムを作り、メタボ人間にそれをやらせるのだ」

(そんなこと急に言われたって、できっこねぇよ…)
(無理だよ…)
軍人たちはそう思いましたが、声にすることはできませんでした。

また別の軍人が立ち上がりました。「閣下。そのメタボ人間たちですが…。素直に保健指導を受けるとは思えません。『特定保健指導』のプログラムを嫌がった場合は、命令違反で射殺してもよいのでしょうか?」
デスラー総統はその軍人をジロリとにらみましたが、声はおだやかでした。「射殺はならん。プログラムを受けるかどうかも個人の自由だ。ガミラス憲法により、個人の自由は保証されている。しかし健康保険組合である諸君は、全員が進んで受けるように、あらゆる努力をせねばならん」
「し、しかし閣下。その努力もむなしく、メタボ人間がプログラムを拒んだ場合は…」
「その場合は、諸君に罰を下す。処刑はせぬが、罰金を科す」

その言葉に、立ちあがっていた軍人は気を失って倒れてしまいました。

「たとえて言うなら」デスラー総統の声が強まりました。「諸君は学習塾と同じだ。塾生が受験戦争に勝てば、諸君の評判は上がる。だが受験に失敗したら、諸君もただでは済まない。学習塾である諸君は、塾生の合格率を上げるために、あらゆる努力をせねばならん。よいか、メタボ対策は諸君の手にゆだねられている。作戦開始は来年の4月だ。健闘を祈る!」
演説を終えたデスラー総統は、満足げにその場を去っていきました。

残された1600人の軍人(=健康保険組合)はしばらくのあいだ、呆然としていました。
「全員に検診を受けさせろだと? どうやったらそんなことができるんだ?」
「メタボ人間は全員、食育だと? 保健指導だと? そんなの、やったことないぞ…」

不安そうに言葉を交わす軍人たち。

彼らがデスラー総統の宮殿からぞろぞろと外に出てくるのを、待ち構えている集団がありました。
何百人という集団です。
その何百人が、わらわらといっせいに軍人たちのところに駆け寄ってきました。
ほとんど目立ちませんが、松宮園生の地味な姿も、そのなかにありました。

「うわー。なんだこいつらは」
パニクる軍人たち。いやほんと、この集団はいったい何なのでしょうか?

(以下次号)

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