チーフの松宮園生です。
今回は食育でもなんでもないんですが、書きたいので書くなり。
僕の印象では韓国は美人と酒豪の国です。
むかしむかし、韓国の群山(クンサン)というところにイムさんという男がいました。
群山は、首都ソウルから南南西にクルマで3時間ほど走ったところにある、港町です。
このイムさんは、ふだんはある会社の事務員ですが、
「依頼者からの依頼にもとづき、日本から出張してきた若造ビジネスマンを潰す」
という特殊な仕事も担当していました。
潰すといっても、お酒の話です。
昼といわず夜といわず、一緒に酒を飲み、相手が潰れたらイムさんの任務は終わりです。
相手が潰れたあと、イムさんは何事もなかったように事務員の仕事に戻ります。
なんの目的で「潰す」のかは、依頼者によってさまざまです。
単に面白いから、というのもあるようです。
ま、その目的が何であれ、イムさんには関係がありません。
イムさんは依頼された仕事を、ゴルゴ13のように淡々と冷徹にこなすわけです。
潰されまい、と頑張る「標的」もいましたが、結局はイムさんの前に敗れ去るのでした。
さて、とある事情で僕もそのイムさんと「対決」しなければならないことがありました。
イムさんの恐ろしさは知っていたにも関わらず、対決を避けることができなかったのです。
もう10年前のことです。
こちら(日本側)は「アベちゃん」と僕の2名で群山に向かいました。
「アベちゃん」が何者なのかは説明を省略します。
体格のよい男だったので「こりゃ助っ人になる」と思って同行を頼んだのですが、体のわりにトウガラシに弱く、韓国に到着した初日からずっとフラフラ状態です。
どっちかっつーと、お荷物になってしまいました。
そういう使えない人物ですので、もう説明しないことにします。
さて、イムさん(日本語わりと堪能)と我々は、イムさんが仕掛けた罠、じゃなかった、イムさんお勧めのレストランで食事を始めます。
ちなみにランチです。
テーブルの上には、豪華絢爛たる韓国料理がずらり。
僕の大好物である、料理名は忘れましたが、まだ動いているタコの吸盤に韓国海苔を散らして食べる料理もあります。
さらに、韓国焼酎の一種、「真露(JINRO)」のボトルが12本…。
(昼間っから12本ですよ)
アベちゃんが僕の耳元でささやきました。
幸運なことにイムさんはこう言いました。
「じつはさっきから歯が痛くてネ。今日はあまり飲めないかナ」
(やったー! 潰されずにすむかも)
アベちゃんも僕も表情が明るくなりました。
ところがです。歯が痛いはずのイムさんの飲みっぷりの凄いことといったら。
韓国には自分が飲んだ酒を相手に返すという「返杯」システムがあるため、飲めないからといって断ることができません。
その返杯が繰り返されるので、自分と相手はいつも同じ量、飲むことになるのです。
したがい、イムさんが「真露(JINRO)」のボトルを5本空けたとすると、われわれも5本空けた計算になります。
アベちゃんはランチ開始後30分で前後不覚となり、僕もそのうちわけが分からなくなってしまいました。
ハッと気がつくと、ソウルに戻る長距離バスのなかにいました。
イムさんが、乗せてくれたのでしょう。
脳髄の半分がまだ、「真露(JINRO)」に浸っているかのようです。
アベちゃんは、座席2人分に横たわっていびきをかいています。
何も考えられずに呆然としていると、窓の外の景色が変わりました。
それまで田園地域を走っていたのが、ビルが濫立する都会の景色に変わったのです。
交通渋滞も始まりました。
ソウル市内に入ったのでした。
「チョソン・ホテルです」
日本語の案内があり、僕はアベちゃんを揺り起こしてバスから降りようとしました。
時刻は夕方の6時。
「やれやれ、今日は夕食抜きで寝ようか」と僕。
「そうっすね」とすっかり枯れた声のアベちゃん。
ところがです。
後ろのほうに座っていた乗客が、つかつかとやってきて僕の肩をたたきました。
振り向くと、イムさんでした。
ああ、イムさん。
呆然とするアベちゃんと僕にむかい、イムさんはニカッと笑って言いました。
「昼間はいい仕事ができなくて悪かったネ。歯が痛いのもおさまったヨ。これから飲みに行こう。店は予約してあるヨ」
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
(前回のあらすじ)
人間の健康維持に欠かせないミネラルのひとつ、カリウム。そのカリウムは、もとをただせばカナダの地下1000メートル深くに眠る巨大なカリウム鉱脈から来ているものだった。
流しの料理人ラザフォードは、そのカリウム採掘キャンプにあるレストランで働きはじめる。そこにはなんと「オーガニックは御法度」という不思議なルールがあった。
◆◆◆
採掘キャンプはちょっとした地下都市のようになっていました。
商店街のようなところもあり、ラザフォードのレストランもそこにあります。
キャンプとはいいながら、普通に商品を売ったり買ったりの「経済活動」が行われていました。
ちなみに使われている通貨はカナダドルです。
カナダドルは、貿易にたずさわる日本人のあいだでは
「キャンドル」
と呼ばれています。
俗称ですね。
アメリカのドルのことを米ドル(ベイドル)と呼んだりするのと同じです。
ろうそくの「キャンドル」とはイントネーションが違っていまして、
ろうそくのほうは「キャン」のところにアクセントを置きます。
これに対し、カナダドルのほうはどこにもアクセントを置かず、平坦な口調で発音します。
カリウムのキャンプ一帯はトンネル状の坑道で結ばれ、人々はクルマで移動しています。
複雑に繋がったり延びたりしている坑道の随所に、採掘マン(文法的に正しくは採掘メン)が住居を構えていました。
キャンプ全体の人口は2200人だったそうです。
太陽に縁のないところです。
最近は少しずつ光ファイバーによる採光システムが導入されつつあるようですが、ラザフォードがいたころは普通の電灯が坑道や商店街を照らしていました。
坑道のところどころに
「もっと光を」
というスプレーの落書きがありましたが、これはゲーテの最期の言葉を借用したものです。
地下は温度の高いところでもあります。
通常、地面を100メートル掘るごとに摂氏で3度、熱くなるそうです。1000メートルの深さにあるカリウム・キャンプは、60度ちかい温度になります。
ですのでエアコンは思い切り動いていますし、地上の空気を取り入れるための空気循環システムもフル稼働です。
圧力の問題も無視できません。
地下に降りれば降りるほど気圧が上がります。
まあこれは人間のほうが慣れるしかないのですが。
エレベーターなどは昇降スピードが速すぎないように配慮されていますし、わざと乗り換えを多くしています。
気圧の変化に体を慣らすためです。
圧力で怖いのは気圧よりも地面そのものの重さです。
もの凄い重量がかかっていますので、いつ坑道が潰れてぺしゃんこになるか分かりません。潰れるのは一瞬です。
坑道が潰れなくても、温泉やら天然ガスなんかが突然噴き出したら、これもキャンプ滅亡です。
だれひとり助からないでしょう。
ま、場所がら温泉だの天然ガスだのが出る確率はゼロに近いですが。
そんなところでラザフォードはレストランを開いていたのでした。
だいぶ稼いだはずです。
◆◆◆
カリウムは農作物の成長に欠かせない要素ですし、クドイですけど人間のカラダにとっても不可欠なものです。
しかしそれとは別に、工業用原料としてのカリウム需要というのがありまして、世界各地の工場で塩化カリウムが大量に消費されています。
錫(すず)や金のようなミネラルは(こいつらもミネラルの仲間です)、単独で存在しているケースがほとんどです。
「水酸化錫」
みたいなもの(化合物)はめったにありません。
「塩化金」
に至っては、まず皆無です。皆無どころか、作ろうとしてもなかなか作れません。
逆にカリウムとかナトリウムとかは、ほとんどの場合、
「塩化ナトリウム(食塩のこと)」
「水酸化カリウム」
みたいに、化合物として存在しています。
錫や金と正反対で、単独で存在することはまずありません。
つまり、カリウム鉱脈と言っているのは、単独のカリウムが固まっているのではなく、
「?化カリウム」
という形(化合物)で固まっているのです。
地下1000メートルの採掘キャンプで掘り出された「?化カリウム」は、そのまま地上に運ばれ、精製されます。
「精製」とは、いろんなものが混ざっているカリウム鉱石から、混じりけ無しの純粋な
「塩化カリウム」
や
「水酸化カリウム」
などを取り出すことです。
このときうまく精製できたものは、工業用原料になります。
じゅうぶんに精製できず、混ぜ物が残ってしまったものは肥料の材料になるのです。
◆◆◆
またまたアラスカのメトラカトラに場面を移します。
「そこまでは分かったよ」僕は言いました。「で、オーガニック禁止の話はどうなったの」
「慌てんなよ」ラザフォードはまたコーヒーをおかわりしました。「その話をするためにだな、あらかじめ塩化カリウムの精製の話をしとかなくちゃいかんのだ」
というわけで、オーガニック御法度の話は次回に持ち越しです。みなさんごめんなさい。
(以下次号)
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
日本・韓国・アメリカは何だかんだ言って政治的な価値観を共有している3国です。
この3国の、「食育」「保健指導」事情をカンタンに比べてみました。
(「食育」と「保健指導」は違う意味の言葉ですが、ここでは「健康増進の方法」という観点から同じように扱いたいと思います)
「食育」や「保健指導」という考え方がもっとも早くから一般に普及したのはアメリカです。
1977年に「マクガバン・レポート」と呼ばれる報告書が発表されて以来、アメリカでは食育や保健指導に関する法律が次々と整えられ、また民間企業が事業として積極的に取り組むようにもなっています。
重要なのは、これまで多くの企業が食育や保健指導に取り組んだ結果、
多くの成功
多くの失敗
を経験しているという点です。
その結果、
「どうしたら成功するのか、どうしたら失敗するのか」
の知識が蓄えられています。
日本はどうかというと、「食育」という言葉じたいは明治時代にすでに一部の専門家が使っていた記録がありますので、その意味ではアメリカよりも早かったといえます。
しかし当時の食育はまったく普及せず、成功の秘訣や失敗を防ぐノウハウなどが蓄積されるようなことはありませんでした。
その後100年のブランクがあり、近年になって「食育」という言葉があらためて注目されるようになりました。
2000年に「健康日本21」が発表され、
2005年に「食育基本法」が制定され、
2008年(来年)には特定保健指導の制度がスタートします。
「食育」「保健指導」の成功例・失敗例がこれからどんどん蓄えられていくことでしょう。
お隣の韓国はどうなっているでしょうか?
韓国は「伝統的な薬膳料理の国」として最近注目されています。
しかし国民の平均的な食生活の実態はわれわれが抱くイメージとは異なり、日本と同様に西洋化がどんどん進んでいます。
たとえば、韓国の青少年の4割以上は、ハンバーガー・インスタントラーメンといったファーストフード・加工食品を週3回以上食べています。
このように国民の食生活がどんどん西洋化してきているにも関わらず、まだ韓国では「食育」に該当するような活動はほとんど行われていません。
ただ、2005年に日本が「食育基本法」を定めたというニュースは韓国でも話題になったようで、
「韓国も食育に力を入れるべきだ」
という意見がぼちぼち出てくるようになりました。
このように、「食育」「保健指導」といった分野のノウハウがどのくらい進んでいるか、という切り口で言うと、大雑把には
アメリカ > 日本 > 韓国
といった進み具合だと思われます。
これはあくまで技術的なノウハウの蓄積という意味です。
もともとの食文化を比較するものではありません、念のため。
今回はここまで。
次回は、「韓国のゴルゴ13 イムさん」の話をします。
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
(前回のあらすじ)
1600人の軍人(=1600の健康保険組合)に対し、デスラー総統(=厚生労働省)から命令が下りました。
「特定検診」と「特定保健指導」を実施せよ、任務に失敗したら罰金ぞ。
という恐ろしい命令でした。
すっかり途方に暮れる軍人たちの前に、謎の集団が現れました…。
◆◆◆
集団はイナゴの大群のように、軍人(健康保険組合)に襲いかかります。
「特定検診はわが社にお任せを」
「保健指導はぜひわが社に発注を」
口々に叫ぶイナゴたち。
松宮園生も仕事が欲しかったのですが、もともと競争に慣れていないのと、
(ここでわめき散らしても仕事にはならんなあ)
と思ったのもあり、声を張り上げるのをサボっていました。
ただ、自分だけ白けていると同業者から何を言われるかわからないので、口パク(くちぱく)だけは、やりました。
その場はひとしきり伊○丹のバーゲンセールみたいな様相を呈していましたが、イナゴのやかましさに辟易したのでしょう、軍人のひとりがとうとう、
「あーウルサイ! おれたちは聖徳太子じゃないんだ。一人ずつ順番に喋れ!」
と叫びました。
へー。ガミラスにも聖徳太子っていたんだ。
いずれにせよ、イナゴたちはその一声でおとなしくなりました。
集団のなかから、比較的落ち着いた感じの女性が進み出ます。
「みっともないところをお見せして失礼しました。私どもは保健指導専門の武器商人の集まりで、アウトソーサー連合と申します」
「なんだその、大リーグ選手みたいな名前は?」
「それはサミー・ソーサ選手のことでございます。しかも彼はソーサです。ソーサーではありません。サミー・ソーサのサは伸ばさないのです」
女性は穏やかに、しかし間髪を入れずに知的なツッコミ。
「おお、そうか」赤面する軍人。
「私どもはアウトソーサーです。アウトソーサーというのは、『業務委託を受ける下請け』という意味です。つまり、私どもは皆様のしもべでございます。デスラー総統から難しいご命令が下ったと耳にしております。ぜひ、皆様のお手伝いをしたいと思ってやって参りました」
「こんなに大勢で、か?」
「私だけでご挨拶に参ろうとしたのですが、他の者も来たがりまして」その声には、迷惑そうな響きが少し、含まれていました。
「おれたちが困っているのにつけこもうというわけだな」と、別の軍人がいいました。
女性は落ち着き払って答えました。「つけこもうとしているのか、お役に立とうとしているのかは、私どもの話をお聞きになってから、お決めいただきとうございます」
「わかったよ」別の軍人がいいました。「で、あんたは代表者かい。おれたちはあんたと話せばいいのかい」
女性が「そうです」と答えようとした瞬間、集団がまた騒ぎだしました。
「わが社の話も聞いてください!」
「ぜひわが社にブレゼンさせてください!」
口々に叫びはじめました。
いつまでたっても収拾がつきません。
その様子に軍人たちはげんなりした表情を見せました。
しかし、デスラー総統の命令を実行するには、この連中に頼らなくてはならないのも事実です。
そのうち、軍人たちと武器商人たちは、思い思いに無秩序に名刺交換を始めます。
運のいい武器商人は商談の約束をすることができたようですし、そうでない商人も大勢いました。
◆◆◆
健康保険組合を軍人にたとえましたので、彼らにサービスを買ってもらいたいアウトソーサーたちは武器商人というたとえになります。
彼ら武器商人は何を売るのかというと、例えば、
「検診の結果(何万人、何十万人分)を記録するデータベースや解析ソフト」
「1対1の保健指導面談ができるカウンセラーみたいな人材」
「メタボ人間むけ体質改善レシピブック」
「メタボ人間に使ってもらう健康小道具。例えば生活習慣測定器とか体脂肪計」
「メタボ人間に参加してもらう健康イベント。例えば、ガミラス星を歩け歩け大会とか、みんなでやろう朝のラジオ太極拳」
「生活習慣病を予防するためのセミナー」
「スポーツジムでの、メタボ撲滅トレーニングメニュー」
「毎日の食事をデジカメで撮影し、画像をクリニックに送ったらクリニックからアドバイスがもらえるサービス」
「カスタムメイドのサプリメントを選ぶサービス」
「温泉(ただし爆発しない)を活用したストレス癒しメニュー」
こんなものを開発し、ひとつの「健康プログラム」にまとめあげ、武器として売るわけです。
効果的な武器を上手に有機的に組み合わせることができれば、立派な「戦略兵器」になります。
そうでないものは、ただの武器の集合体に過ぎません。
しかしほとんどの武器商人(=アウトソーサー)は、
「武器を上手に組み合わせて戦略兵器にする」
ことができませんでした。
というか、「戦略兵器」という概念がまったくありませんでした。
手近な適当な武器を集めて売ろうとしているだけだったのです。
例えばある武器商人は、たまたま知っている
「リンボーダンス振興協議会」
なる団体と組み、
「リンボーダンスを週に3回行い、管理栄養士▽※先生の考えた食事メニューに従って食べ、内臓脂肪を落とすプログラム」
を作りました。
それをある軍人(健康保険組合)にブレゼンしたわけです。
すると、相手はこんなことを言いました。
「リンボーダンスが体に悪くないのは何となくわかるし、管理栄養士の▽※先生のメニューが良さそうなのも確かにそんな気はするよ。でもさ、いろいろある中からリンボーダンスを選ぶ理由は何なの? 阿波おどりじゃ、ダメなのかい。食事メニューもさ、あんたは▽※先生のメニューを勧めるけど、☆△先生のメニューじゃ、だめなの?」
こんな厳しい(でもまともな)質問を受けて答えられず、凹んでしまいました。
正確にいうと、
「リンボーダンスの素晴らしさ」
「管理栄養士▽※先生のメニューの素晴らしさ」
は説明できたのですが、
「じゃあリンボーダンスは阿波おどりより優れているのか?」
「管理栄養士▽※先生のメニューは、☆△先生のメニューより優れているのか?」
には答えられなかったのです。
実際、同じ軍人のところに
「週に3回の阿波おどり、プラス、管理栄養士☆△先生の考えた食事メニュー」
という提案が、別の武器商人(=アウトソーサー)から出されていたのです。
その武器商人は、たまたま知り合いが役員をしている
「全国阿波おどり普及協会」
と提携していました。
リンボーダンスに阿波おどり。
うーむ。
なんつーか、何だって工夫すれば健康プログラムになってしまう感じだな。
「1日の半分を逆立ちで過ごすプログラム」とかテキトーに作れそうだな。
いいのか、そんなことで?
で、気の毒な健康保険組合さんたちは、
「リンボーダンスをとるか阿波おどりをとるか」
「▽※先生をとるか☆△先生をとるか」
を自分で決めなくてはならないハメに、陥りました。
「困った」全国の健康保険組合からボヤキが漏れました。「どのサービスを導入するか決めなくてはならないのに、決められない…」
「仕方ない、サイコロを振って決めよう」
「美人の営業マンがいるほうにしよう」
「見た目の値段が安いほうを選ぼう」
うーむ。
◆◆◆
デスラー総統が
特定検診
特定保健指導
の大号令を発表した数日後、松宮園生は仕事の都合でイスカンダルに引越をしました。
「宇宙戦艦ヤマト」を見ていらい、いつかは行きたいと思っていた憧れの星イスカンダル。
そこで彼が見たものは…。
数々の「戦略兵器」が蓄えられた保健指導先進国、イスカンダルの華麗な姿でした。
(以下次号)
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
僕は大和男児ではありますが、しぶしぶとはいえ一時的にアメリカに住んでいるので、どこか
「アメリカかぶれ」
の部分がいろいろあると思います。
世の中には
「ヨーロッパかぶれ」
の人もいます。
ラザフォードではないけど、日本人で「流しの料理人」をしている人と出会ったことがあります。
場所は東京で開かれた、どこかの食関係のパーティだったと思います。細かいところは忘れました。
その人は、世界のあちこちにでかけてさまざまな食材を口にして、帰国すると講演会をしたり出張料理教室をしたりしているのだそうです。
なんだかピリピリしている雰囲気の人でした。
目が怒っているのです。
なんで怒っているのかなー。
恐る恐る会話をしてみると、
「こんなくだらないパーティは不愉快だ」
ということでした。
(じゃあ、無理にいなくても、帰ればいいじゃん)
そう思いましたが、言うと暴れそうだったので言いませんでした。
その人、僕より頭ひとつ背が高かったし。
パーティが不愉快だったら、ふつう帰りますよね。
主催者じゃない限り、居残る義理はないわけだし。
でもその「流しの料理人」、苦虫をかみつぶしたような表情をしながら、いつまでもポツンとそこにいました。
不思議に思って恐る恐る会話を再開してみると、どうやら彼はこのパーティだけが不愉快なわけではないらしく、日本の食環境全体に対して不快感を抱いているらしいことが分かりました。
それを主張したいのに誰も聞いてくれないので、このパーティはくだらない、ということになったようです。
なにを主張したいかというと、たとえば、
「食料を海外から輸入しないと生きられない日本人は、馬鹿だ。もっと地元の食べ物を食え」
てなことを、おっしゃっておりました。
次に、
「自分は世界中の食材を食べた。ヨーロッパの有機農産物は素晴らしい。それに比べて日本の有機農産物のマズイことといったら、腹が立つ。日本では料理をする気にならない」
こんなことも仰せになりました。
同じ有機農産物なのに、どう違うのかと聞くと、
「ヨーロッパの有機野菜は味が濃く、深い。日本のは味が薄く、深みがない」
のだそうです。
その違いはどこから来ているのかと聞くと、
「ヨーロッパの土壌は固い。固い土地で固いまま農業をするので、野菜も鍛えられる。ヨーロッパの農家は野菜を厳しく育てるので、有機肥料をやりすぎたり、水をやりすぎたりしない。だから野菜が鍛えられ、濃く深い味になるのだ」
これに対して、
「日本の土壌は柔らかい。さらに農家がせっせと土壌改良をして柔らかくしている。ふわふわの土が素晴らしいと思っている。そんなところで育てた野菜は甘っちょろい。だから薄味で深みが出ない」
のだそうです。
「ああそうでしたか。よくご存じの方なんですねえ。よい方に出会えて、大変勉強になります」弱気な僕は丁寧にヨイショしました。「日本がヨーロッパのような美味しい有機農産物を作ろうと思ったら、土を固くすることが大事なんですね?」
するとその人はふふんと鼻を鳴らして「無理だよあんた。日本の土ではヨーロッパのような味の農産物はできないね」
「じゃあ、どうしたら?」
「美味しい野菜を食べたかったら、ヨーロッパに食べに行くか、ヨーロッパから輸入しなきゃダメだよ。日本はもっと、ヨーロッパの農産物を輸入するべきだ。そうしたら、自分も日本で料理をしようという気になれる」
「なるほど、日本はもっとヨーロッパの野菜を輸入するべきなんですね」弱気な僕は丁寧に言いました。「でもさっきあなたは、食料を海外から輸入しないと生きられない日本人は馬鹿だ、もっと地元の食べ物を食え、とおっしゃっていましたが…」
するとその人は顔を真っ赤にして、
「自分の言いたいことはそういうことじゃないんだ。分からん奴だな」
と怒りだしました。
◆◆◆
この「流しの料理人」、扱いにくい性格の人だなー、ということは別として、
「ヨーロッパの有機野菜は味が濃い。日本のは味が薄い」
というのはひょっとしたら事実なのかもしれません。
僕自身はヨーロッパの有機野菜を食べたことがないので、何ともいえませんが、
先日、僕を「バウムクーヘン野郎」と名づけた葉竹乃木夫さんからこんな話を聞きました。
レ○ル・マ○リードという有名なプロサッカーチームがスペインにありますね。
彼らがかつて来日したときのこと。
食事中に選手たちが、
「日本の野菜はイマイチおいしくない」
と言い始めました。
レ○ル・マ○リード専属の栄養士がそれを聞き、僕の師匠の葉竹乃木夫さんのところに相談がありました。
葉竹さんはレ○ルの選手が何を不満に思っているか知るために、インタビューをすることにしました。
レ○ルの選手はいいました。「もっと美味しい野菜を食べさせてくれ」
「美味しい野菜って、どんな野菜なわけ?」と、葉竹さん。
「そりゃ、オーガニック(有機)野菜だよ」
「ふーん。でもあんたら、オーガニック野菜とそうでない野菜の区別、つくんかい? 食べて分かるんかい?」
するとレ○ルの選手は目をまるくして言いました。
「えっ? あんたには分からないのかい?」
つまり、オーガニック野菜とそうでない野菜、レ○ルの選手には食べて違いが分かるということです。
しかも、
「えっ? あんたには分からないのかい?」
と驚いたということは、
「ふつう、食べたら誰だって違いがわかるだろ?」
という意味がこめられています。
皆さんはどうですか?
ブラインド・テスト(目隠しをして、テイスティングをする試験)で、有機野菜とそうでない野菜、区別できますか?
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
2000年に厚生労働省(実際には、当時はまだ『厚生省』だったと思います)は「健康日本21」という政策を発表しました。
国民のあいだで広く健康に対する意識を高めるために、国をあげてさまざまな活動を行う、というものです。
「健康日本21」のなかでは、「2010年の日本はこうでありたい」という目標が設定されています。
たとえばこうです。
メタボ男性の比率が15パーセント以下になっているといいなあ。
メタボ女性の比率を20パーセント以下になっているといいなあ。
メタボ小学生の比率が7パーセント以下になっているといいなあ。
みんなが塩分控えめで、1日あたりの塩分摂取量がひとり10グラム未満になっているといいなあ。
野菜を毎日ひとり350グラム以上食べるようになっているといいなあ。
朝ごはんを食べない大人が減っているといいなあ(20歳代・30 歳代の男性の15パーセント以下)。
中学・高校生は全員、朝ごはんを食べるようになっているといいなあ。
その後、2005年に「食育基本法」という法律ができました。
「国も自治体も、それぞれ予算をとって、食育政策を考えて実行しなさい」
という意味の法律です。
同じタイミングで、「食事バランスガイド」というものが発表されました。
タレントの優香さんの CM で知った方が多いと思いますので、
「食事バランスガイドは最近できたもの」
という印象があるかもしれませんが、作られたのは2年前です。
さらに2008年(来年です)には、「特定保健指導」という制度が動き始めます。
これは、40歳以上のメタボな国民に対して、生活改善のための指導を行うというものです。
「健康日本21」
「食育基本法」
「食事バランスガイド」
「特定保健指導」
こうした一連の動きは、じつはある程度アメリカの歴史を参考に作られています。
◆◆◆
というわけで、健康についてのアメリカの歴史をみてみましょう。
マクドナルドが現れる前からアメリカ人にはメタボ傾向があったようで。
100年前のある文献に、
「この国(アメリカ)が肥満社会になっていくのが心配だ」
というようなことが書いてあります。
実際にアメリカ政府も当時から肥満対策をやるつもりがあったようです。
ところが1929年にウォール街で株が暴落し、あの世界恐慌が始まりました。
肥満対策どころではなくなってしまいました。
世界恐慌 → ヒトラー出現 → 第二次世界大戦。
この間、肥満対策はなされませんでした。
生活習慣病よりも戦地で亡くなる人のほうが多かったわけですから、無理もありません。
戦争がおわり、アメリカは「世界一豊かな国」として繁栄を謳歌します。
すると、ふたたび生活習慣病の脅威がムクムクと頭をもたげてきました。
ガンや心臓病で亡くなる人が急増したのです。
当然、治療にかかる費用も増えていきました。
大統領でいうと、ケネディとか、ジョンソンとか、ニクソンとか、フォードとか、カーターといった顔ぶれの時代です。
世界恐慌から半世紀ほどたったころの話です。
この5人のうち誰だったか忘れましたが(たぶんニクソンかフォードです)、
「どうもこの国はおかしいぞ」
と思ったのでしょう。アメリカ国民の生活調査というのを実施しました。
その調査のリーダーになったのが、上院議員のマクガバンという人です。
マクガバン上院議員は2年ほどかけて調査を行い、その結果を議会で発表しました。
有名な「マクガバン・レポート」です。
このレポートが公表されたとき、全米は大騒ぎになりました。
「アメリカ人の食生活はひどすぎる。そのせいで心臓病やガンなどの病気が増えた。このままでは、今世紀(20世紀)の終わりまでに、アメリカは医療費だけで破産する」
という内容だったからです。
どっひゃー(死語)。
大変です。
大統領もふくめ、政治家の皆さんもビビりました。
資本主義の盟主国であるアメリカが、医療費ごときで破産するわけにはいきません。
あわてて政府は、生活習慣病を減らすために「食育政策」を始めたのでした。
その食育政策には「ヘルシーピープル」という名前がついており、今でも実施されています。
(以下次号)
食育の世界でなにかしてみたい人、活躍してみたい人、必見!
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食育の世界にご案内します。
◆◆◆
チーフの松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
バナナのムロ会社を買収しようと暗躍するテケテケ商事。腕利きのスパイ松宮園生の魔の手が、ムロ会社に迫る。大丈夫かムロ会社?
テケテケ商事の陰謀を防ぐため、メキマンが横浜に上陸。
テケテケ商事では、その知らせに怯えて大勢の社員が逃亡。残った数少ない社員でメキマンとの対決に挑む。
そんななか、僕の携帯にメキマンからメールが来ました…。
◆◆◆
メールをもらって驚きましたが、無視するわけにもいかない気がしたので、返事を書くことにしました。
「メキマン様。毎度お世話になりありがとうございます。ご依頼の件、検討させていただきたいと思いますが、その前にいくつか確認をさせてください。
貴殿はどのような方なのですか?
貴殿について質問すると、皆が顔を赤らめてモジモジするのはなぜですか?
それなのに貴殿が近づくと皆が逃げてしまうのはなぜですか?
なぜ貴殿はテケテケ商事がキトキト物産を買収するのを防ぎたいのですか?
メキマンからの返事はありませんでした。
返事がないまま、僕は最終調査地、松山に到着してしまいました。
◆◆◆
バナナは世界中で大量消費される果物です。
毎日莫大な金額の取引が、世界各地で行われています。
それもあり、バナナの貿易ビジネスには陰謀の噂が絶えません。
たとえば南米のコロ×ビアもそうで、あの国のマフィアさん(さん付けしちゃいました。怖いので)の資金源は麻薬だけではありません。
かつて、そんなことを知らない僕のところにコロ×ビアの会社から電話がありました。
「お電話ありがとうございます。食育プロダクション株式会社(http://shokuiku-pro.com/)です」
「バナナ・シンジケートちゅー者なんやけど、社長さん、おるかな?」
「社長の松宮です」
「さっそくやけどコロ×ビア産のバナナなんやけど、国として本格的に日本に売りこみたい思いましてな。マーケティングのプランニングをまっつんにお願いしたいんや。ご褒美やけど、バナナ1年分でどやろか? ええ話やと思いますけどなあ」
バナナ1年分って、サルかオレは。
それにまっつんて誰のことだよ。その呼ばれかた、キライなんだよ。トラウマ持ってるし。
なめるな、と答えて電話を切ると、またかかってきました。
「さっきのは冗談や」バナナ・シンジケートと名乗る人物は言いました。「報酬は×××万円くらいでどや思てます。期間は1か月。如何でっしゃろ」
1か月仕事して×××万円。
金額が僕の怒りをかき消しました。
僕はその仕事を引き受けました。
「世界中からこんなにたくさんバナナが日本に輸入されているにも関わらず、いまさら自国のバナナを売り込みたいコロ×ビア政府のために、彼らのバナナを上手にPRする方法を考え、企画書を作る」
そういう仕事でした。
しかし、そんな難しい仕事をたった1人でやる自信はありません。
報酬が×××万円ということは、2名でチームを組んで報酬を折半しても良い金額です。
というわけで、僕は仲間を募ることにし、知り合いに話を持ちかけました。
するとその知り合いが言いました。「あんたそれヤバイよ」
「どういうこと?」
「あんたが受け取るお金、マフィアの資金洗浄とかに使われるんじゃないの?」
「まさか」
「気をつけたほうがいいよ。実はオレも何年か前にコロ×ビアのバナナ会社とつきあいがあってさ…。直接の商売はなかったんだが、縁があってコロ×ビアのバナナ農場を見学に行ったのさ。そしたら本国に入れなくてさ、近くの島で1週間も待たされたんだよ」
「どうして?」
「農場はマフィアが仕切っててさ、よそ者が来たら殺すと言い始めたらしい。バナナ会社のエージェントがあいだに立って、マフィアをなだめようとしていたそうだけど、うまくいかなかった。で、そのまま日本に帰ってきた」
「そんなことがあったんだ」
「オレが知ってたバナナ会社のエージェント、日本人だけど、その何日かあとに行方不明になったよ」
「ひぇー(←死語)」
「あの国には関わらないほうがいい。くわばらくわばら(←死語)」
話を聞いてすっかりビビってしまった僕は、その仕事を断ることにしました。
ところがです。その夜にバナナ・シンジケートのほうから電話がかかってきて、
「報酬、前金で払うたるわ。まっつんの口座に振り込んでおいたさかいに。期待してまっせ」
「ちょ、ちょっと。あの、じつはですね」
「金は払うたよ。しっかり頼んまっせ。逃げたら、あかんで」
電話が切れました。
機先を制された感じです。
気がついたら失禁してしました。
洗濯機を回し、床を掃除しながら僕は泣く泣く決心しました。
生きていたかったら、仕事しよう。
失禁して、かえって気持ちが落ち着いたようです。
いやまてよ。
生きていたかったら、仕事しよう。
これって、普通のことじゃん、よく考えたら。
恐怖で鼻水まみれになりながら、自分にツッコミを入れる松宮でした。
で、それから必死に仕事をしまして、企画書なんかも山のように作って彼らに渡し、1ヶ月後に契約は終了しました。
とりあえず無事に1か月がたったわけです。
あれから数年をビクビクしながら過ごしましたが、今のところバナナ・シンジケートから連絡もなく、刺客が送られてくることもなく、国税局やFBIやCIAに追われることもなく、まだ生きてます。
コロ×ビアのバナナも、たまにスーパーマーケットで見たりします。
◆◆◆
いやー、あの1か月間は生きた心地がしなかったなあ。
でも、あれから連絡がないということは、
「松宮の仕事(企画書)はあきまへんな。あんなアホに仕事頼むのは、もう止めときまひょ」
ということなのかもしれません。
それはそれで悔しい話です。
連絡がほしいのか、ほしくないのか、複雑な心境です。
松山の路面電車に乗りながらそんなことを思い出していると、携帯にメールが届きました。
差出人:メキマン
ようやくメキマンから返事が来たようです。
(以下次号)
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
早朝のアンカレッジ空港の出発ロビーでこれを書いてます。
(日記をアップするのはもっと後になると思いますが)
アラスカでいちばん大きな都市はアンカレッジです。
大きいつっても、人口30万人程度。
日本の都道府県の県庁所在地の人口ランキングにアンカレッジが「参戦」したら、48都市中、30位くらいです。
那覇市(沖縄県)とか盛岡市(岩手県)とかと同じくらいです。
人口30万人程度、つっても、アラスカ州全体の人口が60万人くらいですので、その半分がアンカレッジに住んでいることになります。
残りの30万人は、広大なアラスカの大地に「散らばって」います。
この散らばっている30万人にとって、アンカレッジは
「大都会」「人が多すぎて住みにくいところ」
なんだそうで。
アンカレッジの南数百キロのところににピーターズバーグという、住民が3000人の小さな町があるのですが(そんな町のくせに、生意気にも空港があってジェット機が離着陸します)、そこに住んでいる知り合いがこのあいだ、
「ここ(ピーターズバーグ)も人口が増えて住みにくくなったよ。すっかり都会になっちまった。そろそろ田舎に引っ越そうと思うんだけど」
てなことをほざいていました。
話を戻しますが、アンカレッジ空港で売っているホットドッグはまずい。
パンはぼそぼそしてるし、ソーセージもイマイチ。
うーむ。
これを書いている今は朝の6時半。
ほぼ白夜のせいで外は真昼のように明るいし、早朝だというのに空港ロビーは人だかりがしています(年配のカップルが多い)。
にも関わらず、カフェテリアとかはどこもまだ開いてなくて、唯一売っていたのがこのホットドッグでした。
というわけで、長年の悪友である流しの料理人ラザフォードから聞いたホットドッグの話を思い出したので紹介します。
◆◆◆
ラザフォード自身はアメリカ生まれですが、彼の母方の祖母はちょっと気取った感じのイギリス人でした。
祖母と孫の交流は年に2回くらいありました。
夏は祖母がアメリカを訪れてきましたし、冬はラザフォードがイギリスを訪問していました。
ラザフォードが10歳のころの夏。
事情は忘れましたが、祖母と2人でホットドッグを食べることになりました。
イギリス人である祖母は、ホットドッグを食べたことがありませんでした。
しかも彼女は、ホットドッグという名前から何やら勘違いをしていたらしく、
「犬を食べるなんて、野蛮な話だこと」
と眉をしかめて言っていたそうです。
それでも、アメリカ人の「伝統食」といわれているホットドッグを、いちどは経験しておこうと思ったのでしょう。
あまり浮かない顔をしながらも、ホットドッグを2つ買いました。
1つは孫のラザフォードの分、もう1つは自分の分です。
2人は公園のベンチに腰かけました。
自分のホットドッグの袋を開けたとたん、祖母の顔が赤くなりました。
彼女はラザフォードに言いました。
「あんたのホットドッグは、どこの肉だったの?」
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
40歳以上の皆さんへ。
あと10か月です。
なにが10か月かというと。
あと10か月したら、皆さんのところに健康保険組合からたぶんこんな通達が来ます。
「○月×日に健康診断を行います。40歳以上の方は、全員かならず健康診断を受けましょう」
今までもそういう通達が来ていると思いますが、来年はもっと切羽つまった感じで、こういう通達が来ます。
「頼むから健康診断に来てくれ。キミが来てくれないと、オレたちが困ったことになるんだ」
なぜかというと、国の命令でこういうことが決まったからです。
↓
あー。えへん。
全国 1600 のかわいい健康保険組合たちよ。
わたしは厚生労働省である。
ひざまずいてよ?く聞け。
日本はメタボ大国になりつつある。
アメリカやイギリスほどひどくはないが、このまま何もしなければ彼らの仲間入りだ。
なんとかせねばならん。
そこでだ。
諸君のところに加入している大勢の組合員、ようするに保険証を持ってる人たちのことだが、諸君の力で内臓脂肪を減らしてほしいのだ。
自分のところの組合員の内臓脂肪は、自分のところで責任を持て、ということだ。
メタボを減らした組合には、苦しゅうない、褒美をとらす。
メタボを減らせなかった組合には罰金を科す。
来年の4月から、このメタボ撲滅作戦を開始する。
以上である。
諸君の健闘を祈る。
「宇宙戦艦ヤマト」を知っている人は、ガミラスのデスラー総統が軍人を集めて演説しているところを想像してください。
デスラー総統(=厚生労働省)の言葉に、集まった軍人(=健康保険組合)のなかからざわめきが起きました。
(そんなこと急に言われたって、できっこねぇよ…)
(無理だよ…)
そんなささやきがあちこちで交わされます。
ひとりの軍人が立ちあがって言いました。
「総統陛下。いや、総統閣下。いや、総統殿下」
となりの軍人が慌てて耳打ちしました。「総統は閣下だよ。閣下」
「総統閣下。ご命令とあらば必死にやりますが、どのようにやればよろしいのでしょうか?」
デスラー総統は気を悪くしたようすもなく、答えました。
「うむ。そういう質問が出ることは予想しておった。では教えてしんぜよう。まず、加入している組合員全員に健康診断を受けさせるのだ」
「閣下、それは今までもやっておりますが…」
「そうではない。『特定検診』という名前のついた、メタボ専門の健康診断をするのだ」
「はあ…」
「40歳以上の者は、すべてこれを受けさせるのだ。全員だぞ、全員」
「閣下。ぜ、全員でありますか?」
「全員だ」
またもや軍人のあいだでざわめきが広がりました。
「しかし閣下。全員に受けさせるということは、その『特定検診』を受けなかった個人は命令違反で射殺してもよいのでしょうか?」
「ばかもの」デスラー総統は言いました。「射殺してよいわけがなかろう。『特定検診』を受けるか受けないかは、本人の自由だ」
さっきよりはるかに大きなざわめきが起きました。
(意味が分からん…)
(全員に受けろと言っておきながら、受ける受けないは自由? どういうことだ…?)
デスラー総統はざわめきが収まるのを辛抱強く待ち、それから言いました。
「受ける受けないは個人の自由だ。ガミラス憲法により、個人の自由は保証されている。しかし健康保険組合である諸君は、全員が進んで受けるように、あらゆる努力をせねばならん。そういう意味だ」
今度は、その場がしん、と静まりかえりました。
デスラー総統は続けました。
「まだ先があるぞ、諸君。『特定検診』を受けてメタボだと判明した者がいたとしよう。おそらく、全体の何割かはメタボに違いない。メタボ人間が見つかったら、保健指導をするのだ」
「ほ、保健指導とはなんでありますか、閣下?」さっきとは別の軍人が立ちあがって言いました。「今までそんなことはやったことがありません、閣下」
「ではこれから研究したまえ。保健指導とは、メタボ人間を相手に食育をしたり、運動させたりすることだ。生活トレーナーと言ってもよい。この指導のことを『特定保健指導』と呼ぶことにする。諸君は『特定保健指導』のプログラムを作り、メタボ人間にそれをやらせるのだ」
(そんなこと急に言われたって、できっこねぇよ…)
(無理だよ…)
軍人たちはそう思いましたが、声にすることはできませんでした。
また別の軍人が立ち上がりました。「閣下。そのメタボ人間たちですが…。素直に保健指導を受けるとは思えません。『特定保健指導』のプログラムを嫌がった場合は、命令違反で射殺してもよいのでしょうか?」
デスラー総統はその軍人をジロリとにらみましたが、声はおだやかでした。「射殺はならん。プログラムを受けるかどうかも個人の自由だ。ガミラス憲法により、個人の自由は保証されている。しかし健康保険組合である諸君は、全員が進んで受けるように、あらゆる努力をせねばならん」
「し、しかし閣下。その努力もむなしく、メタボ人間がプログラムを拒んだ場合は…」
「その場合は、諸君に罰を下す。処刑はせぬが、罰金を科す」
その言葉に、立ちあがっていた軍人は気を失って倒れてしまいました。
「たとえて言うなら」デスラー総統の声が強まりました。「諸君は学習塾と同じだ。塾生が受験戦争に勝てば、諸君の評判は上がる。だが受験に失敗したら、諸君もただでは済まない。学習塾である諸君は、塾生の合格率を上げるために、あらゆる努力をせねばならん。よいか、メタボ対策は諸君の手にゆだねられている。作戦開始は来年の4月だ。健闘を祈る!」
演説を終えたデスラー総統は、満足げにその場を去っていきました。
残された1600人の軍人(=健康保険組合)はしばらくのあいだ、呆然としていました。
「全員に検診を受けさせろだと? どうやったらそんなことができるんだ?」
「メタボ人間は全員、食育だと? 保健指導だと? そんなの、やったことないぞ…」
不安そうに言葉を交わす軍人たち。
彼らがデスラー総統の宮殿からぞろぞろと外に出てくるのを、待ち構えている集団がありました。
何百人という集団です。
その何百人が、わらわらといっせいに軍人たちのところに駆け寄ってきました。
ほとんど目立ちませんが、松宮園生の地味な姿も、そのなかにありました。
「うわー。なんだこいつらは」
パニクる軍人たち。いやほんと、この集団はいったい何なのでしょうか?
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
アメリカにはナチュロパシック・ドクターという専門家がいます。
食育と東洋医学を足したような領域のお医者さんです。
ナチュロパシック・ドクターについての詳しい説明はここをクリック。
シアトルにバスティーア大学という有名な大学があります。
ナチュロパシック・ドクターになりたい人が通う大学です。
日本人留学生もちらほらいます。
友人の1人、ドクター・ヨロオネが2年前、念願のナチュロパシック・ドクターのライセンス試験に合格し、昨年開業しました。
ナチュロパシック・ドクターのところに来るのは、
「病気を治したいが、西洋医学には頼りたくない人」
「病気ではないが、専門家の力を借りて病気予防をしたい人」
こんな人たちです。
ある日、
ターザン栄養学の大家チイタッタ先生(メディカル・ドクター)
ヨロオネ先生(新進気鋭のナチュロパシック・ドクター)
松宮園生(バウムクーヘン野郎)
3人で食事をしました。
食事中、チイタッタ先生は
「誰にどういう口実でここの食事代を払わせるか」
を考えていました。
ホントにそう考えていたかどうかは本人じゃないので分かりませんが、そうに決まっています。
その証拠に彼は一計を案じ、食後のデザートが終わったあたりでヨロオネ先生にこんな提案をしました。
「なあヨロオネ先生。今まで診たクライアント(=患者)のなかで、もっとも風変りなケースを比べてみないか。ただし、治った話だけだ。で、相手より風変りな患者の話をしたほうが勝ちだ。負けたほうは、勝ったほうの食事代を払う。審判は、マツミヤ、お前がやれ」
で、そういうことになりました。
先攻はチイタッタ先生でした。
彼は、ネスレという大企業と契約をしていたころの出来事を話しました。
その話は一度書いているので、ここでは省きます。
(その話について知りたい人は、ここをクリック)
チイタッタ先生の話に大笑いしたあと、今度はヨロオネ先生の番でした。
ヨロオネ先生は話しはじめました。
◆◆◆
ヨロオネ先生の診察室に、派手な格好の年配の女性がやってきました。
「今日はどうしましたか、ミセス・メープル?」患者に安心してもらうため、優しく話すヨロオネ先生。
「オナラがでるのよ、先生」と、ミセス・メープル。「オナラが出るんです」
「人間なら誰でもオナラくらいしますよ」
「わたしの場合は、1分に1度、オナラがでるのよ。1分に1度ですよ。昨日の朝からずっとこんな感じで」
「そうでしたか。それはお困りでしょう」
「ホントですよ。理由は分からないんですが、音も匂いもしないのがせめてもの救いですわ。これで音や匂いがしようものなら、恥ずかしくて外出できませんもの」
「はあ」
「なんとかしてください先生。オナラが出続けるなんて情けなくて、情けなくて」
「分かりました」ヨロオネ先生は何種類かの薬草を混ぜ合わせる処方箋を書き、ミセス・メープルに渡しました。「バスティーア大学の付属薬局にこれを渡してください。ハーブのサプリメントを処方しておきました。3日たったらまた来てください」
3日後、ミセス・メープルが眉をつりあげて診察室に入ってきました。
「先生。先生の処方したサプリメントを飲みましたよ。そしたら症状が悪化したじゃないですか」
「悪化しましたか?」
「そうですよ。オナラは相変わらず続いてます。1分に1度、出てます」ミセス・メープルはメガネの奥からヨロオネ先生をにらみつけました。「悪化したように見えるのは好転反応です、なんて怪しいことを言うんじゃないでしょうね」
「どう悪化したんですか?」
「音が出るようになったんですよ、今朝から。昨日まで音がしなかったのに。音が出るんですよ。どうしてくれるんですか。医療ミスですか」
「そうですか。それは良かった」
「なんですって?」
「ミセス・メープル。これであなたの耳は治りました」ヨロオネ先生は言いました。「次はあなたの鼻を治すハーブを処方しておきましょう」
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
「丸投げ鵜呑み」のアグリドラゴン。しかもそのツケが入社初日の葉竹さんのところに回ってきました。
葉竹さんはいきなりクレーム処理におおわらわ。
どうやら事件の背後には、怪しげなコンサルタントがいることが分かりました。
「丸投げ鵜呑み」もイカンけど、そこにつけこむコンサルタントもイカン。
コンサルタントをどやしつけようと考えた葉竹さん、コンサルタントを呼びつけます。
あらわれた相手をみてびっくり仰天。
なんとそやつは、30年来の仇敵、宿命のライバルありました。
◆◆◆
「き、貴様か!」
お互いを指さして叫ぶ2人の男。
その場の気温が5度、上昇しました。
周囲の若者たちが、「なにが起こったんだ」と目を白黒させています。
最初に攻撃をしかけたのは葉竹さんでした。
「やいてめえ」葉竹さんは言いました。「相手が素人だと思ってなめたマネしやがったな。このオレが来たからにゃあ、てめえの思うようにはさせねえぞ」
「なに言ってやんでい」コンサルタントも負けずに言い返します。「少しでも安い野菜を持ってきてやろうと思った親心よ。人の好意はありがたく頂戴しやがれ」
「親心だと? 好意だと? てめえの脳みそのどこに親心だの好意だのがあるんでい。おかしくてヘソが茶をわかすわ(←死語)」
「ヘソが茶をわかすだと? けっ。やってみやがれ、この田舎もんが」
「やってやろうじゃねえの」(←やるの?)
お茶といえば、妙にドンピシャのタイミングで、若くてきれいな女性社員がお茶を持ってきました。
「おう、ありがとよ。別嬪さんだねえ」コンサルタントはうれしそうに言い、お茶をひとくちすすりました。
ずずず。
「おめえも茶、飲めよ」
「言われんでも飲むわい」
葉竹さんも、お茶をすすりました。
ずずずずずず。
なんだか間延びしたケンカです。
◆◆◆
彼らがお茶をすすっているあいだに、ちょっと解説しましょう。
このコンサルタントは多賀安秀夫という名前で、農業の世界では知る人ぞ知る人物です。
葉竹さんも同様に、知る人ぞ知る人物です。
知名度は、だいたい同じくらいでしょう。
葉竹さんが九州出身、多賀安氏が東北出身であるため、
「北の多賀安、南の葉竹」
と僕は勝手に呼んでいます。
この2人、じつは同じ△▽大学の出身です。
△▽大学といえば、名の知れた大学です。
同じ農学部の、しかも同学年でした。
受験に1度失敗し、浪人していた点も、共通しています。
このころから、2人はいがみ合っていました。
卒業してもいがみ合いは続き、2人とも農業コンサルタントの世界に身を投じたものだからたまりません。
どこにいっても衝突していました。
女性をめぐっていがみ合うこともあったと聞いていますが、真偽の程はわかりません。
じつはこのいがみ合い、かなり大勢の農家さんを巻き込んだ「勢力争い」になっています。
「葉竹とつきあう農家は、農家じゃねえ」
「多賀安に味方する農家は、ぜんぶ敵だ」
などとお互いのグループで吹いてまわるものですから、肥料メーカーや農薬メーカーも巻き込まれてしまい、あっちの陣営と商売したらこっちの陣営から嫌われる、なんてことになっています。
いがみ合いに「参戦」しているのは年配の農家さんが多く、
どっちでもいいじゃんよー。とにかく仕事してくれよー。
若い農家さんの本音はこうでした。
なぜそんな昔からいがみ合っているのでしょうか?
それには深いわけがありました。
話は1970年代にさかのぼります。
(以下次号)
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◆◆◆
チーフの松宮園生です。
この話は、遅々として進まない「メタボ最北端」のシリーズに出てくる流しの料理人、ラザフォードから聞いたものです。
「メタボ最北端」のシリーズについてはここをクリック(↓)。
メタボ最北端 その1
メタボ最北端 その2
メタボ最北端 その3
メタボ最北端 その4
不届き者ラザフォードの失礼な人柄についてはここをクリック(↓)。
メタボ最北端 番外編
では本編に入ります。
◆◆◆
アラスカ州にあるメトラカトラという無人島に、忽然と姿を見せる木こりのキャンプ。
流しの料理人ラザフォードは、ウルフギャング・パック顔負けの料理を、そんな最果ての地で作っていました。
「ここ(アラスカ)はたしかに辺境の地だけどさ、うまい空気もあるし、おてんとうさまもあるからいいよ」キャンプの食堂でダベっているときに、ラザフォードは言いました。「カリウムのキャンプにはそれがない」
「カリウムのキャンプ?」
「カリウムだよ。原子番号19」
正確にいうと、ラザフォードは「カリウム」とは言わず「ポタシアム」と発音しました。どういうわけかメリケンはそう発音します。
ですので僕は最初なんのことか分かりませんでした。
ラザフォードが紙に
potassium
と書いてくれたのを、手持ちの電子辞書でチェックしてカリウムだと分かったわけです。
食育の講座とかに参加すると、管理栄養士さんあたりがこんな話をします。
「野菜を食べましょう。野菜にはカリウムがたくさん。カリウムは適度な血圧を保つのに重要なミネラルです」
就農準備セミナーなんかに参加すると、農協の営農指導員さんとかがこんな話をします。
「農作物を育てるのにふつうは肥料を使います。肥料に欠かせない成分はチッソリンサンカリ。この呪文、暗記しましょう。チッソリンサンカリ。さあ、みんなで…チッソリンサンカリ。もう一度…チッソリンサンカリ」
この呪文は、農作物の生育に不可欠な3要素、
窒素
リン
カリウム
のことを表しています。
つまり、カリウムを含む肥料で野菜が育ち、その野菜を皆さんが食べてカリウムを摂取し、血圧をコントロールしているわけです。
◆◆◆
カリウムは鉱物資源です。金の鉱脈が地中に埋まっているように、カリウムの鉱脈も地中に埋まっています。
小さな鉱脈は世界各地にあるようですが、カリウムの巨大鉱脈を持つ国は、世界に3ヶ国しかないそうです。
カナダ
ロシア
ドイツ
この3ヶ国です。
この3ヶ国が、皆さんの血圧の面倒を見ています。
先ほど書いたように、皆さんの体内のカリウムは野菜などを食べることで摂取するわけですが、野菜に与えられる肥料にカリウムが含まれています。
肥料に含まれるカリウムはどこから来るかというと、これらの鉱脈から来ています。
このカリウ鉱脈ですが、掘るのがすごく大変です。
鉱脈は地下1000メートルのところにあるのです。そこまで掘らなければなりません。
掘ったら温泉のように沸き上がってくる、というのでもありません。
まず地下1000メートルまで掘り下げたあと、そこではじめて「採掘」ができるわけです。
たいへんな仕事だ。
でも人間はそれをやっちゃいました。
カナダ中部にサスカチワン州というところがあります。
とある、地平線に囲まれた荒野。
まわりに何もないところにポツンと、3階建てのビルディングがありました。
見かけはなんの変哲もない建物です。
形も中肉中背のビルディングです。
人間じゃないけど、無理に BMI を計算すると、30くらいでしょうか。
(むやみに BMI を計算するくせ、われながら気持ち悪いす)
どってことない見かけの、ちょっと太めのビルディング。
そこが、地下1000メートルのカリウム鉱脈につながる入口でした。
流しの料理人ラザフォードがかつて招かれたのは、そんなところでした。
なんの変哲もないビルディングに入ると、なんの変哲もないエレベーターがあります。
ただのエレベーターじゃないのが分かるのは、
乗る前にヘルメットを渡されるとき。
目的階(=行き先)のボタンを押そうとすると、「B39F」なんてとんでもない数字が表示されるとき(戦闘機の名前みたいです)。
さすがにそのときは、ここが鉱山の入口なのだと実感します。
エレベーターを数回乗り換えて3時間もたったと思われるころ、地下1000メートルに到着します。
気圧の問題もあるので、エレベーターでの下降や上昇はゆっくりと行われます。
本来はものすごく暑い、というか、摂氏60度にもなりますので「熱い」はずですが、強烈に温度調節をしているので、地上の涼しい夏くらいの暑さに抑えられています。
温度調節、要するにクーラーですけど、クーラーの稼働エネルギーはすべて地熱でまかなっています。
エレベーターから踏み出したラザフォード。
そこで彼を待っていたのは、フォードのエクスプローラーでした。
地下1000メートルは舗装された坑道(トンネル)が巨大なアリの巣のように何キロもつづく世界でした。
ラザフォードを乗せたエクスプローラーは、その狭い坑道をキャンプまで走ります。
坑道は不必要に長いわけではありません。かつてはカリウム鉱石の採掘現場だったのが、採掘が進むにつれて奥へ奥へと延びていったものです。
それがいまでは、何キロにもなっているわけです。
◆◆◆
場面はメトラカトラのキャンプに戻ります。
「びっくりしたのはさ」コーヒーをすすりながら、ラザフォードは言いました。「キャンプに着いてみたら、小さな町みたいだった。2200人の住民がいる町だよ」
「地下都市になってるってこと?」
「SFみたいな立派なとこじゃないけどな。でもあれは地下都市だ。ケーブルテレビも見れたし、インターネットもできた。携帯電話も通じる」
「酒は?」
「こことは違って酒も OK だ。キャンプというより、普通の町なんだ。銀行もあればバーもある。セブンイレブンとマクドナルドがある。さすがに学校はないが、病院はある。で、おれはその町で、アンダーエスティメイト(過小評価)という妙な名前のレストランでシェフをやることになった。普通にお金をもらって営業するレストランだ。もしメシがまずくて客足が遠のけば、資本主義の経済原理で廃業というわけよ」
「ふーん」僕はいいました。「で、そこにはどのくらいいたの?」
「3か月ごとに2週間ほど、休暇で地上に出るんだが、そんな感じで2年くらいいたかな」
「よく続いたねえ」
「給料がいいからな。都会のサラリーマンなみの給料がもらえて、加えてレストランの利益の半分をもらった」
「なるほど」
「でもな、お前は食育のバウムクーヘン野郎らしいから教えてやるけどな」突然、ラザフォードは意地悪そうな目になって言いました。「カリウムの世界では、オーガニックは御法度なんだぜ」
「オーガニックが御法度?」
「そのとおり。オーガニックは御法度なんだ」
ラザフォードはそう言い、立ち上がりました。
「オーガニックは御法度なんだ」
彼はその言葉を繰り返し、張子の虎のように首を振りながら手洗に行ってしまいました。
(以下次号)