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チーフの松宮園生です。
キューバは有機農業で有名な国だと書きましたが、現地で聞いたところでは、はじめは有機農業をするつもりがなかったそうです。
化学肥料や農薬をふつうに使い、ふつうのスタイルの農業をするつもりだったようです。
それがなぜ「有機農業先進国」になったかというと…
キューバはソビエト連邦と仲よくしてました。
ソビエト連邦が元気だったころは、ソビエトからお金も物資も送られてきて、キューバの生活もまあまあ豊かだったらしい。
でもソビエト連邦は崩壊しましたよね。ベルリンの壁も壊れたし。
それ以降、お金や物資を送ってくることがなくなり、キューバは経済的に困窮しました。
化学肥料や農薬を買うお金が、なくなったのです。
そのために、キューバは国を挙げて有機農業に真剣に取りくむようになったそうです。
◆◆◆
(前回までのあらすじ)
なんの前触れもなく突然マンゴーの輸出を禁止したキューバは、ものすごくよく分からない国だった。
「誰に聞いたら何が分かるのか、が分からない」
そんな国に迷い込んだオニイサンと僕。
大使の紹介で「軍隊のエライ人」に会うことになるのだが、果たして…?
では、続きをお読みください。
◆◆◆
「軍隊のエライ人」はホセ・なんとかという名前でした。
発音できない名前は、覚えないことにしています。
体の大きい人でした。軍服を着ています。
一般人の農業は政府が管轄しているそうですが、
軍人の家族の農業はこのホセ・なんとか氏が仕切っているそうです。
オニイサンと僕は、
「ただっ広いのに応接セットがひとつしかなく、ほかに誰もいない部屋」
に案内され、そこでホセ・なんとか氏と面談しました。
通訳がわれわれの用件を伝えると、ホセ・なんとか氏は言いました。
「そうか、わかった。マンゴーは輸出禁止になっているのか。それはイカンな」
「分かってくれましたか」とオニイサンが言いました。「じゃあさっそく、輸出禁止を撤回してください」
「よし分かった。では今から、誰がそんな禁止令を出したのか、調べてみよう」
(えっ。アンタ知らないの?)
そういいかけた言葉を、僕は飲みこみました。
その横で、オニイサンが果敢に言いました。
「たぶんお国の農業大臣とか、農業長官とかが出したんじゃないですか?」
「かもしれんな」ホセ・なんとか氏はいいました。「誰が大臣をしているのか調べてみよう」
ここ、ずっこける(←死語)ところです。
調べとくから、明日また来なさい。
ホセ・なんとか氏にそう言われ、オニイサンと僕(とメキシコで雇った通訳)は
「ただっ広いのに応接セットがひとつしかなく、ほかに誰もいない部屋」
をスゴスゴと退出したのでした。
建物を出ると、そこに別の軍人が立っていました。
通訳によると、
「せっかく日本から来た客人だから、農場でも案内してあげなさい」
とホセ・なんとか氏に言われ、迎えにきたのだそうです。
というわけでわれわれは、首都ハバナから車で2時間のところにある軍隊農場まで、連行されたのでした。
太陽がカンカンに照っています。
連行された農場は、遠くからみると何もないただの白っぽい荒地に見えるのですが、近づいてみるとたしかに農場でした。
ただし、人の姿はありませんでした。
盛り上がった畝が、何本も何本も、遠くまで延びています。
そこに、赤く実ったマンゴーが転がって並んでいました。
問題はここです。
皆さんのなかに、あれっ? と思った方がおられるかもしれません(全員かも)。
そうです。マンゴーって、木になるんですよね。
スイカみたいに地面に転がっているわけではありません。
僕の頭には不思議な記憶があって、そこではマンゴーは地面に転がっていたのです。順序よく整然と。
でもありえないですよね。
記憶違いだと思います。なのになぜか僕の頭には…。
じつは農場での記憶はここで途切れています。
はっと気がつくと、オニイサンと僕(と通訳)はそれぞれビニール袋いっぱいのマンゴーを抱え、軍人の運転するワゴン車に揺られていました。
太陽が傾きかけています。
オニイサンはニコニコしています。
そのまま何事もなかったように、ワゴン車はわれわれが泊まるホテルに帰ってきました。
「バカかおまえは。おまえもマンゴーを木からもぎとってたじゃねえか」
これが、地面に転がるマンゴーの話をしたときの、オニイサンの反応でした。
どうやら、へんな記憶を植えつけられているのは僕だけのようです。
(キューバ軍が、ややこしい日本人をうまくかわすために、記憶を誤魔化すような神経ガスでも使ったのか)
と、ちょっと思ったのですが、オニイサンの様子をみるかぎり、そんなことではなさそうです。
それに、たとえそういう神経ガスを使ったとしても、僕の記憶を誤魔化してマンゴーを地面に転がしたところで、いったい何になるでしょう?
その日はそういうことで暮れました。
ちなみに、あらかじめお断りしますが、「地面になるマンゴーの記憶」の件はオチがありません。
いまでもアレはなんだったのか、謎のままです。
その日の夜、オニイサンと僕(と通訳)はマンゴーを食べるのに大騒ぎしました。
ホテルでナイフとスプーンを借りようとしたのですが、
例によって
「誰に聞いたら何が分かるのか、が分からない現象」
がここでも起きたのです。
フロントに聞いても、どこにナイフがあるのか分からない。
どこにスプーンがあるのか分からない。
隣接するレストランは閉店準備をしていましたが、
店員に「ナイフとスプーンを貸してくれ」と聞いたところ、
「申し訳ないがよく分からない」
という、よく分からない返答しかかえってこない。
というわけで、その夜は結局、ナイフもスプーンも入手できず。
アーミーナイフみたいなものを誰も持っていなかったので、自分たちでなんとかすることもできず。
疲れ果ててマンゴーを食べるのをあきらめたのでした。
翌朝。
朝日のまぶしさに目をしばたたせながら、オニイサンと僕(と通訳)は再び、「軍隊のエライ人」ホセ・なんとか氏を訪問しました。
昨日とは別の、会議室らしい部屋に案内されました。
そこには数名の男女がおり、どうやらホセ・なんとか氏の部下のようでした。
挨拶もそこそこに、ホセ・なんとか氏は部下にむかって話し始めました。
通訳の話では、
「マンゴーを輸出禁止にした張本人を知らないか?」
「いえ、知りません」
という会話が交わされていたようです。
ひとしきり議論があり、ホセ・なんとか氏はたちあがってわれわれに握手を求めました。
部下の人たちも、順番にわれわれと握手をし、去っていきました。
最後に、オニイサンと僕(と通訳)だけが会議室に残りました。
どうやら面会は終わったようでした。
「今のは何だったの?」オニイサンが呆然とつぶやきます。
「ようするに」通訳が答えました。「調べてみたがよく分からない。幸運を祈る、ということのようで…」
(次回 その4に続く)