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マツミヤ倶楽部

2008.05.11 08:14

食育ニュース25時

 

こんばんは。
真夜中の食品安全ニュースです。

◆◆◆

最初に、輸入レモンから大量のアスコルビン酸が検出されたという
ニュースです。
本日未明、横浜の大黒埠頭にカリフォルニアから運ばれたレモン2万トンが到着しました。
到着した輸入レモンを抜き打ち検査したところ、大量のアスコルビン酸が出たとのことです。
輸入元の○×フレッシュ貿易株式会社は対応に追われており、まだコメントを出しておりません。

(画面が切り替わる)

大黒埠頭の現場から中継です。
ここに停泊している巨大な船。
大きいですよね。
今回入荷したレモンですが、この巨大な専用船「マリタイム・オーキッド」号によってカリフォルニアのフィトバレーから運ばれたものです。
大黒埠頭に到着したあとは、すべてこの倉庫に保管されています。
倉庫に入ってみます。

(倉庫に入る)

倉庫の中はレモンの爽やかな香りが充満しています。
少し暗いのですが見えますでしょうか。
ここにある何千何万という箱はすべてレモンの箱です。
抜き打ち検査が行われたのは昨日の夕方でしたが、検査早々からL体のアスコルビン酸が見つかったとのことで、関係者のあいだに衝撃が走っています。

◆◆◆

(再びスタジオ)

次のニュースです。
東京都の調べによりますと、都内のイタリア料理店の9割以上が、硫化アリルを含有した食材を意図的にスパゲティ料理に添加していることが判明しました。
添加している理由は、そのほうが味も香りもよくなるからだそうです。
これに関し、東京都板飯協会ははまだコメントを出しておりません。
東京都は、東京都板飯協会のコメントを待って、対応を検討することにしています。

(画面が切り替わる)

「銀座三越前に来ています。都民の感想を聞いてみましょう。…あ、すいません。ちょっといいですか? 硫化アリルってご存知ですか?」
「いえ、知りません」
「都内のイタリア料理店の9割以上が、硫化アリル含有食材を意図的にスパゲティ料理に添加しているっていうのもご存じないですか?」
「えっ、そうなの? よく分からないけど、怖いわねえ」

「硫化アリルってご存知ですか?」
「知らねーけど…硫化水素みたいな?」
「都内のイタリア料理店の9割以上が、硫化アリル含有食材を意図的にスパゲティ料理に添加しているのは知ってましたか?」
「まじ? やべーよそれ。さっきスパゲティ食ったばっかだし」

◆◆◆

(再びスタジオ)

政府広報です。

(画面が切り替わる)

「花子さん、このパン、全粒粉らしいんだけど、食べて大丈夫かなあ」
「太郎さん、心配だったら検査してもらったら? 食品分析センターに行けばやってもらえるよ」
「食品分析センター?」
「ええ。食品にどんな成分が含まれているか、詳しく調べてくれるところよ」
「そうなんだ、どこにあるの」
「全国8か所に事業所があるのよ」
「じゃあ。そのうちのどれかに頼めばいいんだね」
「各事業所と試験室はコンピューターネットワークで結ばれ、迅速に、正確に、きめの細かいサービスが提供されています」
「なるほど。…てか、誰に向かって話してるの?」

(数日後)

「太郎さん、検査どうだった?」
「うん、花子さん…。微量だけど無視できない量のセレニウムが検出されてさ…」
「ええーっ」
「おまけにマンガンまで検出されたよ」
「そうだったのね。食品分析センターに調べてもらってよかったわね」
「うん、よかったよ」
「この食品大丈夫かな? あれ? おや? もしかして? と思ったら食品分析センター。食品分析センターにお電話ください。待ってまーす」
「だから誰に向かって話してるの?」

◆◆◆

(再びスタジオ)

今日の報道で、食べものには危険がいっぱいだなーと思った皆さん。
種明かしをしましょう。

アスコルビン酸とは、ビタミンCのことです。
レモンを検査したら、ふつービタミンCは大量に検出されます。

硫化アリル含有食材とは、ニンニクのことです。
スパゲティ料理には、たいがいニンニクが入っています。

セレニウム、マンガンはともに体に必要な微量ミネラルです。
無視できない量のセレニウム、マンガンが検出されたら、ふつー文句はありません。

ではまた、明日のこの時間にお会いしましょう。

(会いません)

 

-----オフ会のお知らせ-----
次の土曜日、「食育プロデュース委員会」のオフ会を行います。
テーマ:「食の資格について語ろう」
参加者募集中。
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2008.05.06 18:33

21世紀神様の悩み その9

 

松宮園生です。

「21世紀神様の悩み」シリーズもこれで第9話になりました。

(このシリーズの説明)
繁栄にあぐらをかき、飽食をむさぼる先進国。
彼らに鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
* ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
* 飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

現世でもメタボを迫害する動きが現れてきました。
(例)
* 「メタボ撲滅同盟ニキータ」という秘密結社が、メタボの暗殺を始めました。
* 「メタボ警察」がメタボを捕えて「メタボ裁判」にかけ、有罪になると「メタボ刑務所へ」…。
* 萌え系管理栄養士の阿部マリエは大勢のメタボ男性を救いましたが、暗殺されてしまいます。

このシリーズ(21世紀神様の悩み)は、そうしたちょっとすごく怖い時代を懸命に生きる人々を描く、壮大なヒューマン・ドラマです。

◆◆◆

神様の手違いでメタボ地獄に行ってしまったアイドル栄養士、阿部マリエ。
彼女の2度目の命日がやってきました。
日本食育大学で行われた追悼イベントには1万人を超えるメタボ男性が集結。
あまりの暑苦しさに火災と勘違いし、119番通報をする近所の人がいたほどでした。

追悼イベントは涙をみせずに明るくやろう、という主旨のもと、
「阿部マリエ記念 第1回 アイドル栄養士コンテスト」
が行われました。
僕もその審査員の1人でした(※)。

そのコンテストで、栄えある初代チャンピオンに選ばれたのが、ナオコです。
管理栄養士ナオコ。
彼女はもともと
「月刊メタボマガジン」
の読者モデルをしていたころから
「ポスト阿部マリエ」
という呼び声が高かったのですが、ここにきてついにメジャー・ステージに上がったのです。

(※)ついついノリで審査員を引き受けたばっかりに、
「松宮園生は管理栄養士萌えだ」
という根も葉もない噂がたちまして、けっこう困っています。

◆◆◆

メタボ男性の心をわしづかみにする、管理栄養士ナオコの、その後の快進撃は…。

彼女がメタボ指導(特定保健指導)をしている銀座の「アルカトラス・クリニック」は、予約で半年待ち。
指導料も急上昇。
ただしこのクリニックには実は佐久間象子もいたりなんかして。
半年待ったあげくに佐久間象子に当たったときの衝撃は都市伝説と化しています。
(詳しくは→ 「保健指導ナウ! その3」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/04/3_24.html

CDもリリースしました。
題して「メタボリック・ラブ」。
大企業がこぞって大量買いしたため、ミリオンセラーになりました。

ナオコ・ブランドのメタボメジャー(腹回りを計測する巻尺)が発売されました。
限定1万個。
父の日のプレゼント用にあっという間に売り切れ、ヤフオクで9万円の値がついています。

テレビCMに出てほしいという依頼も殺到。
* サ●トリーの「黒烏●茶」
* フ●ンケルの「●汁」
* 大●製薬の「SO● JOY」
あたりに彼女が出演しています。

日本食育大学の教授にもなりました。
プロフェッサー・ナオコです。
最年少教授です。
先を越されたショックで准教授の松宮園生が憤死したという噂も流れました。
(高校の世界史か)

◆◆◆

「管理栄養士ナオコ」フィーバー(←死語)に国民が踊っているころ…。
冷静に事態を見つめ、利用している人々がいました。
外国人投資家です。

先日、経済産業省が
* 管理栄養士ナオコの登場で2年以内に日本人成人男性の平均腹回りが10パーセント改善する
* その経済効果は40兆円
という予想を発表。
目ざとい外国人投資家がいっせいに日本企業に投資し始めたため、日本の株式市場が高騰しました。

「管理栄養士ナオコ、株式市場まで動かす」
そういう記事が新聞に載りました。

しかし、ここでの陰の主役は、外国人投資家です。

ナオコ萌えのメタボお父さん。
あなたが頑張ってお腹を引っ込めたら、会社の業績が上がり、株価があがり、外国人投資家が儲かるわけです。
あなたの給料もちょびっとは上がるかもしれない。
でも1番儲かるのは、外国人投資家。

目ざといのは投資家だけではありませんでした。
世の中には「格付(かくづけ)専門会社」といわれる会社がありまして。
たいがいは、外資系です。

彼らは、いろんな企業の財政状態を審査し、格付(等級づけ)しています。
財政状態の良い会社には良い点をつけ、公表する。
財政状態の悪い会社には悪い点をつけ、公表する。
こういうことをしています。

この格付専門会社が、ひそかにこんなリストを作っていました。
「メタボ社員の多い会社リスト」

このリストが突然、高い値段で売れるようになり、格付専門会社(外資系です)も大儲け。
これまでは、
「メタボ社員の多い会社はダメ会社→ 株価も上がらない→ だから投資しない」
という考え方だったのですが、管理栄養士ナオコの登場でそれが一変。
「メタボ社員の多い会社はダメ会社→ メタボが改善したら、急に優良会社になる→ ダメがいきなり優良へ、つまり株価の上げ幅が大きい→ じゃあ今のうちに株を買おう」
となり、世界中の投資家がこのリストを欲しがったからです。

こうして、
「平和な日本人が狭い島国で浮かれているあいだに、ガイジンがちゃっかり稼ぐ」
という図式がここでも展開されているのありました。

(以下次号)

---------------お知らせ---------------
オフ会をしますので、よかったら来てください。
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2008.05.04 19:25

アゴヒゲ その5


松宮園生です。

前回までのあらすじ)
このブログに何度か登場している「アゴヒゲ」
という人物。
稼ぎの悪い「ダメビジネスマン」からお金を巻き
上げようと奮闘する、フリーランスのセールス
マンです。
巻き上げようとするアゴヒゲも情けないけど、
アゴヒゲに目をつけられるダメビジネスマンも
情けない。
僕は以前、この「アゴヒゲ」の標的にされていました。

アゴヒゲは、「新世紀エバンゲリ食品研究会」という団体も標的にしていました。
この団体、人間の遺伝子研究が進むと、
「遺伝子からみて、体によい食べもの」
「遺伝子からみて、体によくない食べもの」
が分かるんじゃないか。
そうなったら、その研究結果をもとに、体によい食べものを開発して売ろう。
という団体です。

アゴヒゲはこの研究会のメンバーだったのですが、どうもその、トンチンカンな発言が多いらしく、他のメンバーから煙たがられていました。
「誰かにアゴヒゲ退治をしてもらおう」
そう考えたメンバーたちは、松宮園生に白羽の矢をたてたのです。
依頼を受けた松宮は、「食品魔術研究所」のサマンサタバサ所長を、アゴヒゲと対決させようと考えました。

松宮園生の入れ知恵により、「新世紀エバンゲリ食品研究会」は、サマンサタバサ所長を顧問に迎え入れることを決めました。
しかし、当のサマンサタバサ氏が OK したわけではありません。
そこで、研究会のメンバーが「顧問になってください」というお願いをするために、「食品魔術研究所」に出向くことになりました。
誰が行くか。
研究会の会長は、アゴヒゲにその役を担ってもらうことにしました。

「だんだん、オレも頼られる存在になってきたな」
勘違いするアゴヒゲ。
立派な役を与えられて上機嫌です。
さっそく、「食品魔術研究所」にコンタクトをしたようです。

◆◆◆

オフィスで居眠りをしていると、電話が鳴りました。
「おう、松宮」アゴヒゲの声でした。「どうだい、相変わらずヒマかい」
「忙しいので、切ります。さいなら」
「あわてるな。ちょっと待てよ。『山鯨(やまくじら)』って知ってるかあんた?」
「イノシシのことだろ」
「なんだ知ってるのか。それならなおのことだ。『食品魔術研究所』のサマンサタバサ先生って知ってるか?」
「知ってるけど」
「今から会いに行く。あんたも来いよ」

アゴヒゲは、僕が陰で糸を引いていることを知らないはずです。
偶然、声をかけてきたようです。
まあそれならそれで、いいでしょう。
僕はアゴヒゲに同行することにしました。
アゴヒゲが、サマンサタバサ所長にコテンパンにされるのを見よう。

「食品魔術研究所」は学園都市、筑波にあります。
アゴヒゲと僕は秋葉原から「つくばエクスプレス」に乗り、終点の筑波で下車。
タクシーで10分ほど走ったところに、その建物はありました。
前も書いたように、そこの所長さん、人呼んで(←死語)サマンサタバサ氏、はクイズ魔でした。
クイズに答えられないと所員はクビ、来客はお茶も出さず追い出す、という人物だったのです。
アゴヒゲは、これに耐えられるか?

建物に入ると受付嬢がいました。
「新世紀エバンゲリ研究会のアゴヒゲと申す者。このあいだクイズに正解したので、サマンサタバサ所長にお会いしたい」
すると、受付嬢が言いました。
「次のクイズを出しますので、見事正解していただいたらおつなぎいたします。日本で初めて、食育という言葉を使った人は誰でしょう」
「明治時代の陸軍漢方医、石塚左玄先生です」
落ち着いて答えるアゴヒゲ。
「お見事です」と受付嬢。「ではご案内しましょう」

「さんざんトレーニングしたからな」
アゴヒゲが、得意そうにつぶやきました。

◆◆◆

サマンサタバサ所長は見るからに学者、という風貌の人でした。
「用件を聞くまえに、クイズだ」ソファに腰掛けるなり、所長が言いました。「まずあんたに聞く」
「えっ、僕が答えるんですか?」
「そうだよ。まずあんたから答えなさい」
「い、いえ」僕は言いました。「自分はこの人のお供で来てるに過ぎません。クイズなら僕ではなくこのアゴヒゲに出してください」
「勝手なことを言うな。2人で来たら、それぞれがクイズに答えるのがここのルールだ」
「はあ…」
「ではクイズ。日本の外食産業の売上規模は、全部で何兆円くらいになるか」
「えっと」天井をみながら思い出そうとする松宮。「た、たしか、年間25兆円から30兆円のあいだだと思いますが…」

「まあいいだろう」サマンサタバサ氏は今度はアゴヒゲに向きなおりました。「次はあんた。世界最大のバナナ生産国はどこだね」
アゴヒゲはわが意を得たりという顔で「バナナ輸出国ということならエクアドルですが、バナナ生産国ということならインドです。インドのバナナ生産量は年間1500万トン。2位のエクアドルの倍です」
「ふん。よく勉強しておるな」所長は卓上の内線電話を手にしました。「あーもしもし。わしだが。来客がクイズをクリアしたのでな、お茶を持ってきてくれ」

お茶が運ばれてきました。

「クイズはこれで終わりというわけではないからな」所長はおごそかに言いました。「打合せ中にもまだまだ続けるぞ。油断しないように」
アゴヒゲは「望むところです」と答え、僕は「えーっ」と言いました。

アゴヒゲに同行してきたことを、僕は後悔していました。
もともと、

  アゴヒゲがクイズに答えられない
  ↓
  サマンサタバサ所長に顧問をお願いするというミッションが失敗する
  ↓
  アゴヒゲは責任をとって新世紀エバンゲリ研究会を脱退する

ということを期待して仕組んだ陰謀だったのですが…。

同行してきた僕にまでクイズ攻撃があるとは、計算外でした。
もし、ミッション失敗の理由がアゴヒゲではなく僕だった場合、アゴヒゲは研究会を脱退しないでしょう。

松宮、危うし!

(以下次号)

 

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2008.05.02 10:40

食育至上主義人民共和国 その7

 

松宮園生です。

「食育による国づくりをめざす」
という方針の国、ザイオン共和国。
そのザイオン共和国にも諜報機関があります。

諜報機関。
アメリカでいえばCIA。
イギリスでいえばMI6(007すなわちジェームズ・ボンドがいるところ)。
イスラエルでいえばモサド。
ザイオン共和国では、オラクルという名前がついています。

諜報機関といえばスパイ。
エージェント、とも言ったりします。

スパイといえば合言葉。
合言葉といえば
「山」
「川」
が有名、というか定番、というかお約束です。
しかしさすがに、そんな単純な合言葉をまともに使うスパイは実際にはいませんね。

「え、そうなの?」
と思った現役スパイのあなた。
マジですか?

実際には、合言葉としては
「今年の夏のピュージェット・サウンドは暑かった」
「去年のインディアン・リバーほど暑くはない」
といった、練られた感じのものが使われたりするわけで(たぶん)。

じゃ、ザイオン共和国のスパイは、どうかというと。
こういう合言葉を使っていました。
「穢(けが)れたネズミを食え」
「神は夏を見た」

「なんだそりゃ?」
と思ったアナタ。
ごもっともです。
そんなふうに思うのも無理はありません。

なぜこんな言葉になったのでしょうか。
現場のスパイは誰も知りませんでした。
ていうか、
「コンピューターでランダムに決めたんだろう」
くらいにカルク思っていました。

というわけで、ザイオン共和国のスパイは世界のあちこちで
「穢れたネズミを食え」
「神は夏を見た」
を合言葉に暗躍していたのです。

そんなある日。
日本の公安当局と作戦会議をするために日本に立ち寄ったザイオン共和国のスパイが、死亡するという事件がありました。
スパイの名を、アンダーソン君としましょう。

アンダーソン君は、暗殺されたのでしょうか?

ザイオン共和国と日本とは友好国どうしです。
日本のスパイがザイオン共和国のスパイを暗殺するとは考えにくい。
では誰が?
食育の推進を恐れたメタボ大国アメリカが、刺客を送り込んだとか?
地産地消が広がって日本の食料自給率が上がるのを恐れた農業大国アメリカが、刺客を送り込んだとか?
いろんな憶測が飛びました。

ザイオン共和国は2人目のスパイを日本に派遣し、最初のスパイ、アンダーソン君の死因を探ろうとしました。

◆◆◆

2人目のスパイ、名をスミスとしましょう。
彼はスパイと呼ばれるのが嫌いで、自分のことをエージェントと呼んでいます。
エージェント・スミスです。
日本での調査を終えたスミスが、ザイオンに帰国し、オラクル本部に出頭しました。

オラクルの長官は、彼を見るなり目を丸くしました。
「まあどうしたの、あんた。ずいぶん痩せたわねえ」

「長官」スミスはサングラスを外して言いました。「あんた、いったいどういうつもりなんすか」
「何が?」
「どぼけんでください。あんた何人のエージェントを日本に送ってるんですか? しかもヘンな連中ばかり」
「何人って、あんたしか送ってないわよ。あんたが帰ってきたから、いまはゼロよ」
「いいえ。何百人と送ってるはずだ。そこらじゅうにオラクルのエージェントがいましたぜ」
「バカね。そんなわけないでしょう。なんで友好国の日本にそんなたくさんエージェントを送る必要があるのよ。ていうか、だいたい、ウチのエージェントってそんなにたくさんいないでしょ。ザイオン共和国の人口が40万人しかいないことを考えたら、わかるじゃない」
「それはそうなんですが…」焦るスミス。「でも日本はエージェントだらけだった」

「なんで、エージェントだと思うの?」
「オラクルの合言葉を使ってたからです」
「え?」
「そこらじゅうで、こう言われたんすよ。『穢れたネズミを食え』」
「…」
「しかたがないので」スミスは続けました。「こっちも反射的に合言葉を返すわけですが、そしたらみんな、急にヘンな顔をして、よそよそしくなって、おれの食事をとりあげてしまうんだ」
「食事をとりあげる?」
「そうです。何度も食事をとりあげられました。手をつけていないにも関わらずです。どうなってんだ、あいつら」

長官は天を仰ぎ、それから溜息をつきました。
「あんた、そこらじゅうで『穢れたネズミを食え』って言われたって言ったわね」
「ええ、そうです」
「それさあ、『穢れたネズミを食え』(Eat a dirty mouse)じゃなくて、『いただきます』って言われたんじゃないの?」
「へ?」
「で、あんたは反射的に合言葉を返した」
「ええ、そうです」
「それねえ、あんたは『神は夏を見た』(God saw summer)って返したんだろうけど、日本人には『ごちそうさま』って聞こえたんじゃないの?」
「あっ」
「みんなが『いただきます』って言ったとたんに、あんたが『ごちそうさま』なんて返したら、そりゃ、相手は気分悪いわよ。食事を取り上げられるのも無理ないわね」

「ちくしょー、そうだったのか」うなだれるスミス。「でもヒドイっすよ長官! なんでそんな紛らわしい合言葉にしたんですか」
「してないってば。もともと合言葉は『いただきます』『ごちそうさま』だったのよ。我が国は日本の食育をモデルにしてるんだから、無理もないでしょ。それを、頭の悪いあんたたちが、覚えられないものだから、勝手に英語でいいやすい言葉に変えちゃったんじゃないの」

(ダジャレで英単語を覚える日本の受験生と、同じかい)

「そうだったんすね。それで納得がいきました」スミスはつぶやきました。「アンダーソン君が、飽食の日本でなぜ餓死したのか…」

 

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2008.04.29 10:20

鳥獣ギガ その3


前回までのあらすじ)
さっぱり意味の分からない日本語を、たくみに操る、
中国人の崔(さい)さん。
安徽省というところで、農業でひと儲けしているようです。
数か月前、その崔さんが、
「中国のアヒル農法が日本のアイガモ農法より優れて
いるから、日本の農家は中国のアヒルを買え」
みたいなことを言いたくて僕に電話をしてきました。
(だから題名も、「鳥獣ギガ」にしたんだけど)

しかし、それきりぷっつり、崔さんからの音沙汰はありませんでした。

◆◆◆

暖かい春の日差し。

ノックの音がしました。
ドアを開けると、そこに小柄で、しかめっ面の、頬のこけた青年が、僕を見上げていました。

「ニーハオ」
青年は、しかめっ面のまま笑顔をみせるという離れ業をやってのけました。

「こんにちは」と応える松宮。
「わたしサイですか?」
「は? サイじゃなくて人間に見えるけど…」
「それは異常です」青年は言いました。「わたしサイですか?」
「だからあんたはサイじゃなくて人間…」そこではっと気がつきました。「ひょっとして、崔さん?」
「理解千万ですね」
そう言って、青年はしかめっ面のまま声をたてて笑いました。

崔さん、日本まで、わざわざやって来るとは…。

青年はうなずきました。「わたし崔さん。松宮は不渡り長くて珍しいから」
「は? 不渡りなんか出してないよ、オレ」
「不渡り不渡りでないです。長いですが、意味の考えするときです」

「全然わかんねえ…。崔さん頼むから通訳つれてきてくれよ」
「ふふふん」眉をひそめて怒ったように笑う崔さん。「通訳無駄です」

ふふふん、通訳無駄です。

偶然なんだろうけど、初めて日本語として意味の通じる内容でした。
しかしそれが
「通訳無駄です」
だなんて…。

つーか、崔さん、そこ、笑うとこじゃないから。

◆◆◆

崔さんをソファに座らせ、僕は言いました。
「日本にようこそ。あまり嬉しくないけど…。で、用事は何なの」
「よくぞお出ましください」と、崔さん。「今日こそはネタ狙いなのである」
「ネタ狙い?」
「ネタ狙いには大物小物ですか? 大物小物がモンさん幅世界なのである」
「モンさん?」
「農薬モンさんなのですが、しかし遺伝子モンさんかもしれない」
「ち、ちょっと待て」

僕は薬箱を探しました。
頭痛薬が欲しかったのです。

しかし頭痛薬見つからず。
ていうか、薬箱自体がそう言えばなかったんだけど。
買った覚えないし。

苦労するそんな松宮を知ってか知らずか、崔さんは続けます。
「ネタ狙い松宮コーチ、絶対日本宝物なのです。なので分からない。コーチ絶対松宮いませんから」
「コーチ? それって、何かを教えろという意味?」
「まいった、まいった! 今さら的中率、思ったとおりまいった!」
会心のしかめっ面で、しきりにうなずく崔さん。
意思疎通したのが、よほど嬉しかったらしい。

「で、何を教えろと?」
「絶対日本ネタ狙い当選確実です。お金ばらまく大変」

また理解不能になってきた…。

ですが、僕の脳裏に突然、ひらめくものがありました。
ひょっとして彼が言いたいのは、「ネタ」じゃなくて「種(タネ)」なんじゃないか…?
「モンさん」というのは、「門さん」とか「文さん」とかいう人の呼び方じゃなくて、「モンサント」という会社のことなんじゃないか…?

(モンサントについては→ 「食の世界のスーパーパワー その2」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/04/2_5.html

◆◆◆

崔さんは「種(タネ)」の話をしたいんじゃないか?
つまり、農業の言葉でいういと、「種苗」というやつ。
そういう仮定で話してみると、なんだか少し、見えてくる感じがしました。

ほとんど暗号解読のような、崔さんとの会話。
エニグマか?
しかし人間、頑張れば何とかなるもの。
僕は何日も何日も何日もかけ、憑かれたように崔さんの言っていることを理解しようとしました。
風呂も入らずヒゲは伸び放題でしたが、ようやく崔さんが何を望んでいるのかがひも解けてきました…。

解説します。

崔さんはこう見えても商売には長けているようです。
彼の会社が作る農作物は、何割かがヨーロッパに輸出されています。

昨年のある日。
安徽省にやってきた、ヨーロッパの農産物商社(すなわち崔さんにとってはお客さん)の人たちが、会食の席でこんなことを言いました。
「爆発する人口を支えるための大規模農業もいいけど、なんかちょっとね」
「生産効率を追求するあまり、同じ遺伝子の農産物ばかり作ってしまうのが欠点よね」
「一般人はそれでもいいのよ(笑)、でもあたしたち金持ちは、大量生産の同じ農作物ばかり食べたくないわよねえ」
「それに、同じ遺伝子の農作物ばかりつくると、作物が病気になったらいっぺんに全滅よ」
「土地だって、連作続きで枯れてしまうし」
「いろんな遺伝子の農作物があったほうが、いいって言うじゃん」
「農作物の、多様性というやつよね。よく国際会議とかで出てくる言葉」
「でもどうすればいいの。アメリカも中国も、同じ農作物ばかり作って輸出するようになってるわよ。そのほうが儲かるから」
「儲かっているのは今のうちよ。そのうち社会は、多様性のある農作物を求めるようになるんじゃないかな」
「じゃあどうするの」
「日本ね」
「日本?」
「日本よ。あそこの農作物は、まだ多様性を保っている。固定種も多いって聞くわよ」
「なるほど。あの国は大規模農業してないしね」
「つっても、あの国だってご多聞にもれず、F1種が増えてるっていうじゃん?」

(F1種については→ 「食の世界のスーパーパワー その7」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/04/7_3.html

「増えてるったって、他の国に比べたらたかが知れてる」
「そうよね」
「ということは…。日本の種苗会社を買収したら、あたしたち金持ちはもっと金持ちになるわね。キャー」
「そうよ。そういうことよ。日本の種苗会社を買収しましょうよ」
「あの国、小さい種苗会社がいっぱいあるようだし」
「じゃあ、買いやすいわね。ラッキー」

その会話を黙って聞いていた崔さん。
しかめっ面をしたその心のなかで、パチパチと算盤(そろばん)を弾いていたのでした。
でどうやら、自分自身で日本の種苗会社を物色するために、日本に来たらしい。

つーか、崔さんの破壊的な日本語から、これだけ複雑な内容を聞きだしたオレって、凄くね?
ま、かかった時間も凄いけど。

◆◆◆

「あんたのしたいことは分かった」松宮は言いました。「で、オレに何をしろと?」
「困難ネタ狙い、場所上々攻撃なかなか調べがよくありません」答える崔さん。

僕は数秒考えて、言いました。
「日本の種苗会社がどこにあるのか、調査に協力しろって意味?」
「まいった、まいった! 今さら的中率、思ったとおりまいった!」
「調査してやってもいいけど、オレ、けっこう忙しいんだけど」
「なにひとつ明快なまま、稼ぐ安徽省でしばらくお金ばらまく誕生使命、持つ者です」

僕は数秒考えて、言いました。
「報酬、出るって意味だね?」
「まいった、まいった! 今さら的中率、思ったとおりまいった!」
機嫌よくしかめっ面をする崔さん。

すこし、「崔語」を理解するコツが分かってきました。

よし、仕事をゲットしたぞ。
問題は、僕自身が種苗会社にあんまり詳しくないということです。
ちゃんと調べなければなりません。

どうやって調べようか…。

そうだ、まずは葉竹乃木夫先生に相談しよう。
葉竹乃木夫先生は、僕の農業の師匠です。

(葉竹乃木夫先生については→ 「バウムクーヘン宣言 その2」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/05/2_10.html

葉竹先生に会おう。
僕はヒゲ放題を剃り、風呂を爆裂して、久しぶりに外出しました。
雪が降っています。

葉竹乃木夫先生の到着ノックのオフィス、コンコン叩くと…。
顔が開き、懐かしい葉竹ドアが見えました。
「おう、松宮か。帰国したって聞いてたが、挨拶もなく失礼なやつだな。まあ、寒いから中に入れや」

「こんにちは。葉竹は不渡り長くて珍しいから先生ですね」
「は? 不渡りなんか出してないぞワシは」
「いや、す、すいません。不渡り不渡りでないです。長いですが、考えするときです。日本語かけて時間不愉快なものですから」
「は? 何をいっとるんだお前? 意味が分からんぞ」

あわわわ。
僕の壊れ語の日本がヤバかけてる!
考えた訂正をつつきながら日本語は、必ず不可解な落とし方の結果でした。

不渡り葉竹なのに、焦燥。
怒りが先生、松宮絶縁体バラナラなのでした…。

(以下次号?)

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