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日本食育大学未来学部

2011.05.10 20:09

21世紀神様の悩み 第20話 愛ロボット

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

日本食育大学のロバート・シトピッチャンが開発した食育ロボット「アンドリュー」。
メタボ警察の片棒を担ぎ、一般市民を追いかけまわしています。

詳しくは、

「第6話 食育ロボ発進!」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2010/07/216_1.html

「第9話 食育ロボコップ(前編)」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2010/08/219_1.html

「第18話 アンドリューの食育レストランガイド」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2011/01/2118.html

をお読みください。

さて、そんなアンドリューなのですが…。

それがアナタ、驚きましたよ。
アンドリューのやつ、ブログを書いてやがったのです。



◆◆◆



ブログの題名: 「愛ロボット」



<アンドリューさんのプロフィール>

わたしはアンドリュー。
正式には「アンドリュー77型 製造番号14」であります。
日本食育大学のロバート・シトピッチャン教授によって開発された食育ロボットです。

* 身長: 170センチ
* 体重: 89チログラム。数字だけ見ると肥満でありますが、メタル製ですので身長のわりに重いのであります。
* 職業: 食育
* 好物: 交流電気(とくに50ヘルツ)
* 趣味: 罰を与えること
* 得意技: 徹夜
* 苦手なこと: 暗算
* 貯金: 883円
* その他: ロボットではありますが、合体とか巨大化とかはお断りいたします。

(チログラム?)




<アンドリューさんの最新日記>

「うららかな食育日和」(3月XX日)

今日はいい天気。
「こんな日は、お外で食育したい」と思い、
わたしはアースカラーのダウンジャケットを羽織って太陽の下へ。
わくわく気分で、縄張りを巡回しましたよ。

(服、着るのかよ)
(縄張り? 巡回? ←猫か)


むかうは近くの公園。
いつのまにか桜が…。
春色の空に、白紅色の花びらが顔をチラチラさせていて愛らしいのであります。

池のほとりでデジカメをバシャリ。
最近、アンドリューの心に美意識が芽生え始めましたよ。

親子がお弁当を食べています。
ちょっと拝見。
おやおや、コンビニ弁当をお弁当箱に詰め替えただけじゃないですか。
ダメダメ、そんなことじゃ。

若い母親に愛のロケットパンチをお見舞いするアンドリューなのです。

でもロケットパンチをしたあとは、落ちた拳(こぶし)を拾いにいかなくちゃいけません。
遠くに飛んでいった拳(こぶし)を探すのに30分もかかっちゃいました。
やっと発見し、ついていた血のりをぬぐってから、装着。
それから池のまわりを1周。
遠くで救急車のサイレンの音。

池の散策を堪能したあと、看板に惹かれてオーガニック・コーヒー屋さんへ。
「本当にオーガニックなの?」
有機JAS認証を見せてください」 「トレーサビリティはしっかりしているの?」
フェアトレードって知ってますか?」
さんざん追及するアンドリュー。
バイトの店員が泣きだし、マスターが怒り出します。

ちょっとやりすぎちゃったかな。
でも食育は大切なんです。
くじけませんよ。

ところで、実を言うとわたしはコーヒーを飲むことができません。
頼んだコーヒーはそのまま、電源コンセントを借りて自分をチャージしながら、読書を楽しみました。

帰る途中でデパチカ探訪です。
電卓をたたきながら、並んでいる食品やお惣菜の自給率をチェック。
わたしは、メニューを見ただけで食材の自給率がだいたい分かるんです。

このデパチカの平均自給率は22パーセントでした。
ちょっと低すぎますね。
隣のデパートは、28パーセントでしたよ。
わたしは「責任者を呼べ」と大声をだし、あたりは騒然となります。
やってきた責任者に、愛のスペシウム光線をお見舞いするアンドリューなのです。

スペシウム光線はロケットパンチと違い、出しっぱなしで済むので助かります。
何かを拾わなくてもいいので…。

担架で運ばれる責任者。

その哀れな姿を尻目に、わたしは「完全地産地消! あらゆる材料が国産でできた鍋焼きうどんセット」を購入。
ルンルン気分(←死語)でお家に帰りました。
自分では食べないんですけど、こういう「食育商品」を見つけると仕事の励みになります。
どうせ仕事をするなら、イヤイヤじゃなく、ハッピに。
自分がハッピになる工夫をしていきたいのであります。

(ハッピじゃなくてハッピーだろ)


そんなこんなで、いい天気の中、ゴッキゲン(←死語)な1日を過ごしました。



◆◆◆



こんなブログでした。
よくある
「わたしの生活ってステキでしょ」
系の文体なのに、内容がコワイ…。





(以下次号)



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2011.02.27 08:56

21世紀神様の悩み 第19話 ナオコ

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

また、天才科学者シトピッチャン教授が開発した食育ロボット「アンドリュー」が、メタボ警察の手先となってメタボ迫害に拍車をかけています。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

神様の手違いでメタボ地獄に行ってしまったアイドル栄養士、阿部マリエ。

詳しくは→http://www.shokuiku-pro.com/production/2010/07/212_3.html

 

そんな彼女の2度目の命日がやってきました。

日本食育大学で行われた追悼イベントには1万人を超えるメタボ男性が集結。
あまりの暑苦しさに火災と勘違いし、119番通報をする近所の人がいたほどでした。

追悼イベントは涙をみせずに明るくやろう、という主旨のもと、
「阿部マリエ記念 第1回 アイドル栄養士コンテスト」
が行われました。
そのコンテストで、栄えある初代チャンピオンに選ばれたのが、ナオコです。
管理栄養士ナオコ。
彼女はもともと
「月刊メタボマガジン」
の読者モデルをしていたころから
「ポスト阿部マリエ」
という呼び声が高かったのですが、ここにきてついにメジャー・ステージに上がったのです。

◆◆◆

メタボ男性の心をわしづかみにする、管理栄養士ナオコの、その後の快進撃は…。

彼女がメタボ指導(特定保健指導)をしている銀座の「アルカトラス・クリニック」は、予約で半年待ち。
指導料も急上昇。
ただしこのクリニックには実は佐久間象子もいたりなんかして。
半年待ったあげくに佐久間象子に当たったときの衝撃は都市伝説と化しています。

ナオコはCDもリリースしました。
題して「メタボリック・ラブ」。
大企業がこぞって大量買いしたため、ミリオンセラーになりました。

ナオコ・ブランドのメタボメジャー(腹回りを計測する巻尺)が発売されました。
限定1万個。
父の日のプレゼント用にあっという間に売り切れ、ヤフオクで9万円の値がついています。

テレビCMに出てほしいという依頼も殺到。
* サ●トリーの「黒烏●茶」
* フ●ンケルの「●汁」
* 大●製薬の「SO● JOY」
あたりに彼女が出演しています。

日本食育大学の教授にもなりました。
プロフェッサー・ナオコです。
最年少教授です。

◆◆◆

「管理栄養士ナオコ」フィーバー(←死語)に国民が踊っているころ…。
冷静に事態を見つめ、利用している人々がいました。
外国人投資家です。

先日、経済産業省が
* 管理栄養士ナオコの登場で2年以内に日本人成人男性の平均腹回りが10パーセント改善する
* その経済効果は40兆円
という予想を発表。
目ざとい外国人投資家がいっせいに日本企業に投資し始めたため、日本の株式市場が高騰しました。

「管理栄養士ナオコ、株式市場まで動かす」
そういう記事が新聞に載りました。

しかし、ここでの陰の主役は、外国人投資家です。

ナオコ萌えのメタボお父さん。
あなたが頑張ってお腹を引っ込めたら、会社の業績が上がり、株価があがり、外国人投資家が儲かるわけです。
あなたの給料もちょびっとは上がるかもしれない。
でも1番儲かるのは、外国人投資家。

目ざといのは投資家だけではありませんでした。
世の中には「格付(かくづけ)専門会社」といわれる会社がありまして。
たいがいは、外資系です。

彼らは、いろんな企業の財政状態を審査し、格付(等級づけ)しています。
財政状態の良い会社には良い点をつけ、公表する。
財政状態の悪い会社には悪い点をつけ、公表する。
こういうことをしています。

この格付専門会社が、ひそかにこんなリストを作っていました。
「メタボ社員の多い会社リスト」

このリストが突然、高い値段で売れるようになり、格付専門会社(外資系です)も大儲け。
これまでは、
「メタボ社員の多い会社はダメ会社→ 株価も上がらない→ だから投資しない」
という考え方だったのですが、管理栄養士ナオコの登場でそれが一変。
「メタボ社員の多い会社はダメ会社→ メタボが改善したら、急に優良会社になる→ ダメがいきなり優良へ、つまり株価の上げ幅が大きい→ じゃあ今のうちに株を買おう」
となり、世界中の投資家がこのリストを欲しがったからです。

こうして、
「平和な日本人が狭い島国で浮かれているあいだに、ガイジンがちゃっかり稼ぐ」
という腹の立つ図式がここでも展開されているのありました。

(以下次号)


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2011.01.01 20:27

21世紀神様の悩み 第18話 アンドリューの食育レストランガイド

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

それは異様な光景でした。
有名レストラン「ダイバスター」に、突然ロボットが入ってきたのです。
「予約をしていたアンドリューです」
ロボットはなにくわぬ表情でいいました。

なにくわぬ表情。
つーか、ロボットだからいつも同じ表情なんだけど。

しかし店のほうもさるもの、一瞬たじろぎましたが、すぐに平然と応えます。
「ご予約の、アンドリュー様ですね?」
「そうです」
「ダイバスターへようこそ。お待ちしておりました。お席までご案内いたします」

アンドリューは案内された席に着席すると、ワインリストを丁寧に読みはじめました。
「アンドリュー様」ソムリエがやって来て言いました。「ご不明な点ありましたら、何なりとお尋ねくださいませ」
アンドリューはソムリエを見上げました。「フランスのワイン、イタリアのワイン、スペインのワイン、オーストラリアのワイン、カリフォルニアのワイン…。ずいぶんとフードマイレージが高いんですね」
「は?」
「まあいいでしょう。この、オーパス・ワンというやつをください」
「あのう」
「なんですか」
「どうやって飲まれるのでしょうか?」
「あ」

そうでした。
アンドリューの口はウルトラマン同様、開かないのです。
シュワッチ。

それでも負けず嫌いのアンドリュー、
「構いません。オーパス・ワンを持ってきてください」
と、注文してしまいました。
どうすんの?

ところでこの
「オーパス・ワン」
は、カリフォルニアの最高級ワインのひとつです。
高くて買えません。

続いてアンドリューはメニューを舐めるように読みはじめます。
メートルが来て言いました。
「アンドリュー様、ご質問などございましたら、遠慮なくおっしゃってください」
「ペンありますか」
「ペンですね。ボールペンでよろしければこれをどうぞ」
「ありがとう。メニューに書き込みをしたいのですが、構いませんか」
「どうぞ」
アンドリューはメニューに数字を書き込みはじめました。

「何を、書きこんでおられるのでしょうか?」
「フードマイレージです」アンドリューは顔もあげずに淡々と答えました。「メニューを読めば、フードマイレージがだいたい分かるのです。ところで電卓ありますか」
「電卓ですか」
「この数字を足し算したいのです」
「しかしアンドリュー様は、計算はお得意なのではございませんか」
アンドリューは赤面したかもしれませんが、ロボットですので表情は変わりませんでした。
「たしかにそうですが、いまは電卓を使いたい気分なのです」
「さようでございますか」

渡された電卓をはじき、アンドリューはつぶやきました。
「やはり…」

◆◆◆

電卓をはじき終わると、アンドリューは料理を注文しました。
しばらくしてワインが来ました。
その後、料理が運ばれてきました。

ワインや料理が運ばれてきたのですが、よく考えたら、アンドリューの口は開きません。
ウルトラマン同様、開かないのです。
シュワッチ。
どうするのでしょう。

なんと、アンドリューは自分の頭を取りはずし、テーブルに置きました。

周囲の客がギョッとしています。

頭を取りはずした後の首は、切り株みたいになっています。
その断面のところに
「drink(飲みもの)」
「food(食べもの)」
と表示された穴が空いています。
要は、そこにワインを流し込み、料理を放り込むわけですね。
なるほど。

テーブルの上に置かれた頭部。
首なしの体が黙々と「食事」をする。
なかなかホラーです。

アンドリューはしかし、可能なかぎり上品に食べようとしました。
ワインはグラスにそそいでもらい、テーブルに置いた頭部に香りをかがせる動作をしてから、首に流し込みます。
料理はナイフとフォークを上手に操作し、普通に口に入れるような感じで首に放り込みます。

怖いのかユーモラスなのか、よく分かりません。

やがてアンドリューの食事も終わりました。
頭部を再び装着し、テーブルでの会計を済ませ、アンドリューは立ち上がりました。
「いかがでしたか」と、支配人がやって来て言いました。「お口に合いましたでしょうか?」
アンドリューは答えました。「いただいたワインは、タンクに入っています。後で松宮さんが飲むことになっています。彼の感想を聞いておきましょう」
「料理のほうは?」
「これも別のタンクに入っています。あとで松宮さんが食べると思います」
「でもそれは…、アンドリュー様の体内ですべての料理が混ざってしまっているのではありませんか」
「そうですね。でも構いません」と、アンドリュー。「松宮さんにはそんなこと分かりはしませんから」

分かるっつーの!

◆◆◆

数ヶ月後、日本食育大学から
「アンドリューの食育レストランガイド」
が出版されました。

中身は
「ヘルシー編」
「教育編」
「地産地消編」
に分かれていました。

「ヘルシー編」
カロリーが低かったり、有機食材の比率が高かったり、添加物が少なかったり、そういうメニューを出す店を評価しています。

「教育編」
学びながら食べる、そういうイベントを積極的に開いているレストランを評価しています。

「地産地消編」
フードマイレージの低いレストランを評価しています。

フードマイレージの高い店のランキングも載っていました。
フランス料理店「ダイバスター」は、ワースト1になっていました。

…。

その後、
「アンドリューお断り」
の店が増えましたとさ。

 

以下次号


 

 

   

 

  

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2010.12.15 10:07

21世紀神様の悩み 第17話 食育おねいさん

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

「食育おねいさん」
というサービスが、無料お試し期間中だったので試してみました。
萌え系の食育おねいさんが、メールで食事指導をしてくれるんだそうです。

まずはパソコンを立ち上げ、ホームページから。
ホームページにログインすると…。

「今日の日付を入力してください」
入力しました。

「入力するのは朝食ですか、昼食ですか、おやつですか、デナーですか」
デナーだけ英語かよ。
つーか、それを言うならディナーだろ?

ツッコンでもしかたがないので、そのまま続行です。
「昼食」
を選択しました。

「次のなかから、食べたものにもっとも近いものを選んでください」

絵(アイコン)がいろいろ出てきました。
焼きそばを選んでクリックしました。

すると…。

食育おねいさんから携帯メールが送られてきました。
「こんにちは、松宮さん。食育おねいさんのナオコです。焼きそばはあんまりお勧めしないのよねー。ちゃんと野菜入れたのお?」

返事を送りました。
「おねえさん、こんにちは。お店で食べたんで自分では入れてないけど、ニンジンとかいっぱい入ってたよ」

メールが来ました。
「おねえさんじゃなくて、おねいさん。気をつけてね。間違えたら、足蹴にしちゃうぞー」

「ごめんなさい。おねいさん、怖ぇ」
「おねいさんは怖いのよ。そう、ニンジンとかいっぱい入っていたんなら、まだいいかな。ニンジンにはベータカロチンが豊富なのよ。お昼は焼きそばだけ?」
「コーヒーも飲んだよ」
「コーヒーよりも、どうせ買うんだったら果実入りヨーグルトとかを買ってね」
「うん、分かりました、おねえさん」
「おねえさんじゃなくて、おねいさんだって言ったでしょ」
「あ、そうだった。ゴメンナサイ」
「あなたの今日のお昼ごはんの健康度は50点です。もっと頑張ってくださいね。夜、またメールしましょう」
「はい」

しばらくすると、また携帯にメールが来ました。
「食育おねいさん事務局長の佐久間象子といいます。ナオコから聞きましたが、お昼は焼きそばだったそうですね。焼きそばの食料自給率がたいへん低いのは知っていますか。焼きそばは、材料の94パーセントが輸入なのです。自給率6パーセントしかありません。つまり、あなたの愛国心は6パーセントです。気をつけないと、踏みにじりますよ」

踏みにじる?
象子だけに?

怖いので、読まなかったことにして返信はしませんでした。

◆◆◆

数時間後。

デナーには、
* ロールキャベツ
* 冷奴
* 玄米ご飯
を食べました。
和洋混在、謎の食卓です。

これをホームページで入力すると…。

食育おねいさんから携帯メール。
「食育おねいさんのナオコです。夕食、だいぶヘルシーっぽくなったね。素敵」

返信しました。
「おねいさん、今晩は。えっ、そんなに素敵ですか。やったー。ほっとしました」

「キャベツは消化を助ける食べものなの。冷奴は大豆、大豆にはイソフラボンが入ってて体にいいのよ。ご飯も玄米で食べるなんて素敵ね」
「照れちゃうなあ」
「冷奴には醤油をかけたの?」
「かけました」
塩分には気をつけてね
「はい、そうします」
「あなたの今日のデナーは、健康度85点です。これからもヘルシーなものを食べて、健康を保ちましょうね。じゃあ明日の朝、またメールしましょう」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」

しばらくして、佐久間象子からメールが来ました。
「佐久間象子です。健康度が85点になったからって、いい気になってはなりません。ロールキャベツの自給率は22パーセント。冷奴は32パーセント。玄米 ごはんだけは100パーセント国産ですけどね。あなたの健康度は85点かもしれないけど、愛国心は51パーセントです。昼食よりはマシですが、もっと精進しないといけません」

怖いので、読まなかったことにして返信はしませんでした。

◆◆◆

翌朝。

* パン
* ポテトサラダ
* ブラッドオレンジのジュース
* ハムエッグ
こんな朝食でした。
いつもはもっとベタな朝食なのですが、おねいさんに褒(ほ)めてもらうために、見栄を張ったのです。

これをホームページで入力すると…。

食育おねいさんから携帯メール。
「おはよう。ナオコです。お目覚め?」

「おはよー、おねいさん。どうですか、この朝食」
「すっごくいいよー。タンパク質もしっかり取れてるし、ブラッドオレンジはビタミンCが豊富だし、サラダもついててヘルシー! パンにはなにか塗ったの?」
「ブルーベリーのジャムにしたんだけど。オーガニックであまり甘くないのを使いました」
「ますますいいわね。松宮さんの今朝の健康度は100点です。これで午前中はさわやかに仕事ができるよ。お昼食べたら、またメールしましょうね。100点のご褒美に、ナオコの写メ、送りますね」
「やったー。では行ってきます」
「行ってらっしゃい」

すかざず、写メが送られてきました。
キャメロン・ディアス似の、キレイなおねいさんでした。
ドキドキものです。

◆◆◆

しかし、山手線に揺られていると、例によって佐久間象子からメールが来ました。
「佐久間象子です。松宮さん、あなたにはあきれました。パンの自給率は5パーセント。ポテトサラダは17パーセント。ブラッドオレンジジュースの自給率は ほとんどゼロ。ハムエッグの自給率は7パーセント。ブルーベリージャムの自給率もほとんどゼロなのですよ。健康度はたしかに100パーセントですが、愛国 心はたったの6パーセントです。自分だけ健康になって、国を愛さないあなたは、非国民であり、売国奴だと言わざるを得ません。罰を与えます。覚悟おし!」

読み終わったとたん、佐久間象子の写メが送られてきました。

(以下次号)



 

 

   

 

 

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2010.12.07 14:19

21世紀神様の悩み 第16話 佐久間象子の選挙演説

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

「メタボ狩り」や「メタボいじめ」が横行するようになった日本。
それに追い打ちをかけるように
「日本食育党」
という、メタボ予防を目的とした政党ができました。
その女性党首(足のサイズ38センチ)の選挙演説を聞いてみましょう。
↓↓↓

有権者のみなさあん。
わたくし、このたび衆議院選挙に立候補いたしました、「日本食育党」総裁、佐久間象子です。

わたくし、
* 管理栄養士
* 栄養教諭
* フードコーディネーター
なんですよ。

それから
* 食育必死講座1級
* 食育プリーチャー
* 食育推進士試験ムラサキ合格(←?)
* 炭水化物のソムリエ
* 日本カルパッチョ協会認定カルパッチョ講師
でもあるんですよ。

だからというわけじゃありませんが、わたくし、食育ならだれにも負けません。

(思いっきり「だから」って言ってるよ、この人)

みなさん。
日本は食育の国だって知ってましたか?
え、知らない?
ああなるほど、知らないんですね。
じつは日本は食育の国なんですよ。
だから食育が大事。

そのことを知らない人が多すぎる。
政治や経済なんて、食育の問題に比べたら、そんなのもう。
食育の大切さ、ひろく国民のみなさまに知らせなきゃ。
そう思って立候補したんですよ。

日本は朝ごはんの国だって知ってましたか?
日本は朝ごはんの国なのです。
だから朝ごはんを食べないと、日本は日本でなくなるんですよ。

外交問題で大変ですって?
なにを言ってるんですか。
そんなの、地産地消しないからダメなんですよ。
国産の食べものを食べればフードマイレージが減って環境負荷も減って世界は平和になりますよ。

朝ごはんを食べるときは、家族団らんで、箸を上手に使い、いただきます・ごちそうさまを言うんです。
それが日本です。
知ってましたか?
家族団らんです。
個食はいけません。
命をいただくからいただきますなんですよ。

みなさん。
食育って大事なんです。
それを広く伝えたい。

ニンジンにはリコピンがあるんです。
トマトにはナスニンがあるんです。
ナスにはビタミンC。
レモンにはカプサイシン
トウガラシにはアリシン
タマネギにはベータカロチン。
知ってましたか?
食育を勉強したら、こういうことが言えるようになるんです。
そしたら、凶悪犯罪も減るんです。
素晴らしいとは思いませんか?

(野菜と栄養素の組合せ、1個ずつずれてるよ)

みなさあん。
そして有機農業を大事にしましょう。
子どもたちをつれて有機農場に行きましょう。
命に触れて。
取れたての有機ピーマンのおいしさを伝えましょう。
知ってましたか?
それが日本です。
日本はお米の国です。
アイガモで作ったお米はおいしいんですよ。
お米のレシピはお任せください。
当選したあかつきには、国民のためにわたくし自慢のレシピを提供することをお約束いたします。

(欲しくありません)

日本食育党はこれからも国民の皆さんに食育の大切さを説いてまいります。
日本食育党。
わたくし、総裁の佐久間象子です。
佐久間象子。
佐久間象子。
みなさんの1票が、わたくしの食育活動の源泉でございます。

佐久間象子。
佐久間象子。
佐久間象子です。
なにとぞ、なにとぞ。
佐久間象子を男にしてください。

(医者、行けば?)

皆さんの清き1票をお願いいたしまあす。

◆◆◆

<選挙結果 ★…当選>
★西島幸雄(民主 新)   155,745票
★大池薔薇子(自民 新)  149,970票
佐竹乃木夫(無所属 新)   26,022票
小谷ゆかり(無所属 新)   9,914票
(中略)
佐久間象子(食育 新)      6票

この結果に怒り狂った佐久間象子は、ますます食育に傾倒し、各地で
「学校給食の献立に異議あり!」
というビラをまくなど、「食育テロ」を起こすようになります。
人々は苦笑いをしながら、触らぬ神にたたりなしという呪文を唱えつづけましたとさ。

(以下次号)


 

 

   

 

 

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2010.11.13 22:48

21世紀神様の悩み 第15話 ジャックポット・ピザ

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

メタボ警察の登場とともに国中がメタボに厳しくなり、宅配ピザを注文するのもひと苦労になりました。
こんな感じです。

オペレーター 「お電話ありがとうございます。ジャックポット・ピザでございます。まずお電話番号からいただけますか?」
客 「電話番号ですか。えっと、03-XXXX-XXX です」
オペレーター 「松宮様ですね。住所は目黒区で間違いありませんか?」
客 「はい、そうです」
オペレーター 「ご本人確認をさせていただきます。正確な BMI を小数点以下6桁までおっしゃってください」
客 「は?」
オペレーター 「BMI でございます。特定保健指導ノートはお持ちですよね」
客 「あ、あるけど…」
オペレーター 「松宮様の身長と体重が載っているはずです。そこから BMI を算出していただき、その数字を教えてください」
客 「そんなこと言われても…」
オペレーター 「電卓はお持ちですよね?BMIの計算のしかたはお持ちの特定保健指導ノートに書いてあります」
客 「やだなあ、そんな面倒なの」
オペレーター 「BMI 確認は法律で定められております。ご理解ください」
客 「しかたねえなあ…えっと、ピ・ポ・パ(←死語)…。23.908121。これでいいわけ?」
オペレーター 「ありがとうございます。ご本人確認ができました。ではご注文をどうぞ」
客 「43番の、チーズカルテットの B サイズをお願いします」
オペレーター 「松宮様。そのご注文はお勧めできません」
客 「は?」
オペレーター 「松宮様の特定保健指導の詳細は、私どものシステムとつながっているのです。チーズカルテットを入力しましたら、画面に警告が出ました」
客 「なんだよそれ。どうでもいいじゃん。僕はチーズカルテットを食いたいんだ」
オペレーター 「警告が出た場合、その注文をあきらめてもらうよう説得するよう、販売する私どもに義務づけられているのです」
客 「何を食べようと、勝手だろ」
オペレーター 「おっしゃる通りです。しかし法律では、最低1分18秒以上、私は松宮様の説得に努めなければなりません。チーズカルテットは松宮様の食生活を改善するメニューには該当していないのです」
客 「じゃあ、僕は1分18秒以上、粘ればいいわけだよね。でも何だよ、その18秒なんて中途半端な数字は?」
オペレーター 「松宮様。お体のことを考えて、ご注文を変えていただくわけにはいきませんか?」
客 「分かったよ。しかたねえな、じゃあ10番の大豆ピザにするよ。サイズは B で」
オペレーター 「賢明な選択です。すばらしい。日常のちょっとした選択で、松宮様の未来が変わるのです」
客 「は?」
オペレーター 「説得に成功したら、お客様をほめちぎるよう、法律で定められていますので」
客 「はいはい。お好きなようにやってください。飲みものも注文したいんだけど」
オペレーター 「ご注文をどうぞ」
客 「コーラを」
オペレーター 「松宮様。画面にまた警告が出ました。音楽が鳴っているのは聞こえますか? これは警告ミュージックです」
客 「警告ミュージックって…。ダース・ベイダーのテーマソングじゃん、これ」
オペレーター 「松宮様。飲みものもヘルシーなものに変えることをお勧めします」
客 「コーラはやめとくよ。コーヒーならいいわけ?」
オペレーター 「ホットコーヒーですね? 砂糖とミルクはおつけしますか?」
客 「砂糖をください」
オペレーター 「松宮様。申しわけありません。砂糖を入力しましたら警告が出ました。この音楽、聞こえますか? 蒲田行進曲です」
客 「…砂糖はあきらめるよ」
オペレーター 「賢明な選択です。すばらしい。松宮様のランチメニューはとてもヘルシーになりました。では出来上がりまで45分ほどお時間をください。お越しをお待ちしております」
客 「えっ、行くの? 宅配じゃないの?」
オペレーター 「松宮様には、宅配ではなく来店していただくよう、画面に指示が出ております。法律により、松宮様に来店していただくよう説得することが、私どもに義務づけられています」
客 「それもまた1分18秒なの?」
オペレーター 「おっしゃる通りです」
客 「要するに、歩けということだろ」
オペレーター 「45分間しっかり歩いていただきたいので、ご来店の場所は品川とさせていただきます」
客 「えっ品川? 目黒から品川まで歩くの? それって遠すぎるよ」
オペレーター「ちゃんと歩いてきていただいたことを確認するために、松宮様の万歩計をチェックさせていただきます。チェックが済みましたら、おほめいたします」
客 「別にほめてほしくなんか、ねえよ」
オペレーター 「お会計ですが、大豆ピザの B サイズにホットコーヒーを砂糖なし・ミルクなしでおつけして、全部で8,570円いだだきます」
客 「えっ? 8,570円。それ、高すぎない?」
オペレーター 「松宮様は私の保健指導を受けて注文が変わりましたね? 計算によると、松宮様の健康寿命はこれで2日、伸びました。この価格は保健指導料込みのお得な価格となっております」


(以下次号)


 

 

   

 

 

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2010.11.02 14:41

21世紀神様の悩み 第14話 世界一怖い給食タイム

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前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

「第12話 朝ごはんラプソディ」に登場した武闘派の管理栄養士、佐久間象子。
無知な人々に食育を施すことを自分の使命としています。
その佐久間象子が、こんどは小学生をメタボから救うため、栄養教諭として学校給食の現場に出かけました…。

 

 

今日は、4年1組の番でした。

ベテラン栄養教諭の佐久間象子がのっしのっしと入ってくると、クラスは水を打ったように静かになります。
怯えているのは児童だけではありません。
担任の黒崎先生も、おどおどしながら佐久間象子の挙動を見守っています。

児童の机の上には給食が準備されていますが、まだ誰も手をつけていません。
佐久間象子の許可なしに手をつけるような勇者は、この学校にはいないのです。

上履きをはいた佐久間象子が木製の教壇に上ると、足元がミシミシと音をたてました。
彼女の上履きのサイズは、28センチだと言われています。

子どもの頃、
「ゾウが踏んでも壊れない筆箱」(※)
というテレビCMがあったっけ…。
ミシミシ言う音を聞きながら、中年の黒崎先生はそんなことを連想していました。

(※)http://www.youtube.com/watch?v=-tHIFKKdc98

教壇に立ち、クラスを睥睨(へいげい)する佐久間象子。

「このクラスに11月生まれの子はいますか」
佐久間象子は低く唸るように言いました。
3人の児童がびくびくしながら手を挙げます。
「じゃあ、きみ。名前は?」
「吉森です」
「では吉森君、今日の献立について説明しなさい」
「えっと」
「えっとは余計です」
「は、はい。き、今日の献立は、雑穀ごはん、牛乳、イワシのかば焼き、きざみたくあん、わ、ワカメの味噌汁です」

「うむ、よろしい」
うなずく佐久間象子。

毎日の献立は、あらかじめ暗記する決まりになっていました。
暗唱に失敗した児童は佐久間象子から恐ろしい雷が落ちるのです。
本物の雷より、2倍怖いと言われています。

というわけで、間違えずに答えることができて、ほっとする吉森君。

しかし、尋問はまだ終わりませんでした。
「吉森君のとなりのあなた、名前は?」
「はい、新城です」
「では新城さん、イワシについて何か予習してきましたか?」
「はい」長い髪に赤いリボンの新城さんは、優等生らしくノートを広げました。「イワシは魚へんに弱いという漢字を書く、近海の魚です。日本人の食生活にたいへん親しまれています。栄養も豊富です」

「よろしい。よくできました。では窓際の一番後ろに座っているきみ、名前は?」
「僕ですか? 大田です」
「では大田君。かば焼きとは何ですか?」
「え?」
「かば焼きについて説明しなさい」
「え?」

大田君は困った顔をして天井を見上げました。
佐久間象子の額がピクッとなりました。
教室にイヤな緊張感が走ります。

「どうして黙っているのですか」語気を荒くする佐久間象子。「早くかば焼きについて説明しなさい」
「えっと」
「えっとは余計です」

大田君は答えることができませんでした。

「かば焼きが答えられないとは何事ですか。予習をしたのですか」
「ご、ごめんなさい…」
「このたわけ者が!」大音声(だいおうんじょう)で時代めいたセリフを吐く佐久間象子。その声に、窓ガラスが震動しました。「せっかく皆で楽しい給食を始めようとしていたところを、大田君、きみ1人の怠慢のせいで台無しですよ」

「さ、佐久間先生、そんなに怒鳴らなくても…」立ち上がろうとする担任の黒崎先生。
「あんたは黙らっしゃい!」
すごい形相で佐久間象子ににらみつけられ、黒崎先生はへなへなと座り込んでしまいます。

「いいですか、皆さん」
佐久間象子は、黒板に「人を良くする=食」と書きました。
実際には、途中でチョークが3回、折れましたが。
「いいですか、皆さん。何気なく食べてはいけないのです。素材のことも勉強し、調理のことも勉強し、それを80回噛みしめて食べる。それが大切なのですよ」

振りむくや、佐久間象子は太い指で大田君を指しました。「分かったか、大田!」

(なにを分かったらいいのか…)

しかし、大田君の姿はそこにありませんでした。
恐怖に気を失い、床に倒れていたのです。

◆◆◆

粗相をしたのは大田君だけでしたが、連帯責任ということで、そのあと佐久間象子の説教が始まりました。
長い長い説教が終わり、児童たちがようやく食べることを許されたときには、ワカメの味噌汁は冷えきっていました。
黒崎先生の味噌汁にいたっては、うっすらとですが氷が張っていたそうです。

シベリアかっつーの。

 

(以下次号)


 

 

   

 

 

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2010.10.24 23:09

21世紀神様の悩み 第13話 食育チェス

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前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

神様と悪魔が、人間世界をあいだにはさんで食育チェスを始めました。

(先手)神様: 天地を創造し、大地にブロッコリー、カリフラワー、ホウレンソウなどの野菜を繁殖させ、人間が健康に長生きできるよう取りはからう(ただし、勢いあまって O-157 まで作ってしまった)。

(後手)悪魔: アイスクリームを作りだし、「トッピングにチョコレートはいかがですか?」というセリフを考えだす。人間の男は「チョコレート、いいねえ」といい、女はついでにコーラを注文し、2人とも体重が3キロ増えた。微笑む悪魔。

(先手)神様: 人間の男女がこれ以上太らないようにヨーグルトを創造し、アイスクリームの代わりに食べなさいと人間に命令する。

(後手)悪魔: ヨーグルトに味付けをするため、小麦から薄力粉を、サトウキビから砂糖を作りだし、両者を混ぜ合わせたものを人間に教える。女性さらに太る。

(先手)神様: 健康のためにもっとサラダを食べなさい、と人間に命令する。

(後手)悪魔: サラダにかけるサザンアイランド・ドレッシングと、脂のしみこんだクルトンを作りだす。人間の男女はさらにベルトを緩める。

(先手)神様: 人間がヘルシーなオイルを使うことを期待して、オリーブオイルをもたらす。

(後手)悪魔: オイルを使って魚のフライと鶏のカラアゲを作ることを人間に教える。人間さらに太り、コレステロール値が上がる。

(先手)神様: 人間が体重を落とせるように、ジョギングシューズを創造する。

(後手)悪魔: ケーブルテレビと、チャンネルを変えるのにわざわざ動かなくていいようにリモコンを作りだす。人間はテレビに夢中になり、体重増える。

(先手)神様: 脂肪分が低く栄養の豊富なジャガイモを人間にもたらす。

(後手)悪魔: ジャガイモをジャンクフードのポテトチップスに変貌させ、人間に教え込む。

(先手)神様: 「牛肉は食べたきゃ食べてもいいが、健康のために赤身のところだけを食べなさい」と人間に教える。

(後手)悪魔: マク○○○ドを作りだし、ハンバーガーの形で赤身の肉を人間に食べさせる。さらに「ポテトも一緒にいかがですか?」「Lサイズにしませんか?」というセリフも作りだす。生活習慣病がはびこる。

(先手)神様: 溜息をつき、食事指導プログラムや運動プログラムの作り方を人間に教え込む。

(後手)悪魔: リーマンショックを生み出して人々の財布を寂しくし、食事指導プログラムや運動プログラムにお金を払う余裕を奪う。

(先手)神様: 悪魔の厳しい一手に「うーむ」とつぶやき、腕組みして考え始める。現在も長考中。


(以下次号)

 

 

   

 

 

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2010.10.07 18:59

21世紀神様の悩み 第12話 朝ごはんラプソディー

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
飽食をむさぼる先進国に鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドラマです。

◆◆◆

メタボ警察(別名、メタポリス)による「メタボ狩り」が激しくなるにつれ、オフィスでもメタボに対する風当たりが強くなってきました。
健康づくりを怠けているサラリーマン、とくに朝ごはんを食べていないサラリーマンに、会社から
「食事指導」
という圧力がかかります…。

ある日のこと。
サラリーマンの松宮は、社で課長に呼ばれました。
「何でしょう」
「松宮君は朝ごはんを食べているかね」
「もちろん食べてます。早寝早起き朝ごはん、国のスローガンですからね」

http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/asagohan/index.htm

「嘘をつくな」課長が机をドンと叩きました。「食べてないだろ。ネタはあがってるんだぞ。お前のやってることはすべてまるっとお見通しだ」
「それ、『トリック』で主人公の山田奈緒子が言うセリフじゃないですか」
「馬鹿もん。そんなことを言ってるんじゃない。なぜ朝ごはんを食べないのだ」
「ど、どうして僕が朝ごはんを食べていないことが分かるんですか」
「これを見ろ」
「何ですか、この紙」
「よく読め」
「はあ。えっと、社員の朝ごはん摂取状況に関する内部調査? あ、僕の名前が出てる」
「お前はこの1ヶ月、朝ごはんを2回しか食っとらんな」
「はあ。実はそうですが。何で分かったんですか」
「それは言えん。ていうか、わたしも知らん」
「まさか盗聴とか」
「だからそんなことは知らんよ。問題なのは、松宮君、きみが、朝ごはんを食べてないということだ」
「はあ」
「これから食事指導を受けたまえ」
「食事指導?」
「食事指導を受けて、朝ごはんの大切さを学んでこい」
「今からですか?」
「今からだ。嫌がると給料下げるぞ」
「し、しかしこれから打ち合わせがあるんですけど」
「キャンセルしたまえ!」

◆◆◆

「あーめんどくせー。朝ごはんが大切だなんて耳にタコができるほど聞いてるよ。おれに朝ごはんを食べさせたかったらだな、キャメロン・ディアスみたいな女 の子が『松宮さん、朝ごはん食べてね。はい口をあけて。あーん』って言ってくれれば食うんだよ。こんな音楽室みたいな部屋で食事指導を受けるなんて、やっ てられっかよ。早く終わらせて帰ろ。…あ、誰か来た」
「松宮さんですね。わたしが管理栄養士の佐久間象子です。厚生労働大臣直轄の管理栄養士です」
「ども」
「それだけではありません。わたしは管理栄養士であると同時に、栄養教諭の免許をもっており、フードコーディネーターの資格も持っています」
「はあ。すごいですね」
「それだけではありません。食育必死講座1級でもありますし、食育プリーチャーの資格も取っています」
「はあ。なんかよく分かりませんけど、すごいですね」
「それだけではありません。食育推進士試験はムラサキ合格しています」
「ムラサキ合格」
「ムラサキ合格が最上位です。次がキイロ合格。その次がアオ合格です」
「はあ」
「それだけではありません。炭水化物のソムリエでもあり、日本カルパッチョ協会認定カルパッチョ講師の免状も持っているのです」
「はあ」
「そんなわたしですけど、なにか?」

「は?」
「ですから、そんなわたしですけど、なにか?」

「いや、なにかと言われても…。てか、その言いかた、ちょっと古いし…」
「あなた、松宮さんとおっしゃいましたね。このわたしをご指名で、相談ごとがあっていらっしゃったんでしょ? 相談ごととはなんですか?」
「いやあの。指名した記憶はなくて、それに相談ごともあるわけじゃなくて、ていうか、会社からここに来いって言われてやってきたんですけど」
「まあ」
「食事指導を受けろと上司に言われまして、しかたなく…」
「あらまあ。自主性のない方ねえ、あなた。人に言われていやいや食事指導を受けても、効果はありませんよ」
「そうスよね。自主性がないと効果でないスよね。よく分かりました。では帰って自主性をきたえて、また出直してきます。今日はもう失礼します。ごきげんよう」
「待ちなさい」
「はあ?」
「逃げようたって、そうはいきませんよ。わたしが帰っていいと言うまで帰れないのはご存知? ドアの向こうにはガードマンが控えています。食育ガードマン協議会の認定ガードマンです」
「なんですか、その食育ガードマンって」
「食事指導中によこしまな思いを抱くメタボ男性から、かよわい管理栄養士を守るためのガードマンです。とにかく、あなたは逃げられません。まだ帰るのは早いのです。言っときますが、逃げられないからって、わたしを襲ったら直ちにガードマンが入ってきますからね」
「この人を襲いたいと思う男は、この世にはいないと思うけど…」
「なにか言いましたか」

「いえいえ、独り言です」
「ではまず、レッスンのプログラムを説明します」
「レッスン?」
「まず、歌を暗唱してもらいます」
「う、歌?」
「歌です。わたし佐久間象子が作詞作曲した世紀の名曲『朝食賛歌』。これを完璧にマスターしてもらいます。次に、この歌には振付がありますから、振付もマスターしてもらいます」
「な、なんでまたそんなことを…」
「今までの平均で言うと、歌と振付をマスターするのに、たぶん6時間くらいは七転八倒するでしょうね。わたしのレッスンは厳しいから」
「ろ、6時間? 七転八倒?」
「そう。これを 6-7-8 の法則といいます」
「はあ?」
「わたしの『朝食賛歌』を歌いこなすには羞恥心を消さないといけません。『大の大人がなんでこんなレトロなこっぱずかしい歌を歌わなくちゃいけないんだ』と思っているうちは、絶対に歌いこなせません。羞恥心を捨て去り、心から歌詞とメロディに身を任せるのです」
「はあ?」
「羞恥心があったら食育なんてできません。食育標語を作ったり、食育カルタを作ったり、食育紙芝居を作ったりするのに、羞恥心は邪魔です。いまが21世紀であることを、忘れなくてはならないんですよ」
「とほほ…」(←死語)
「この『朝食賛歌』をマスターしたら、とてもすがすがしい気持ちになりますよ。他人にも地球にもやさしい人間になれるんですよ。そのあと、作文を書いてもらいます」
「作文?」
「作文を書いてもらいます。朝ごはんを毎日食べるために、あなたは今日からどんな工夫をしようと思いますか。2000字程度で書いてもらいます」
「2000字も!」
「100点満点です。80点以上とれたら、今日は帰っていいですよ」
「と、とれなかったらどうなるのですか?」
「農林水産省が作った『めざましドリル』に取り組んでもらいます(※)。美女が出てるから、あなたみたいな即物的な人でも楽しめますよ。そのあとまた、同じ作文を書いてもらいます。この繰り返し」
「はらほれひれはれ…」(←死語)

(※)http://www.maff.go.jp/j/soushoku/kakou/mezamasi/drill/index.html

◆◆◆

ドアが開き、女性が2名、男性が1名、入ってきました。
女性のうち1人は、ピアノの前に座りました。
あとの2人(男女)は、佐久間象子の両側に立ちました。
背筋がピンとしており、タイツをはいています。
「わたし佐久間象子が作詞作曲した世紀の名曲『朝食賛歌』。今から歌と振付のお手本を見せますからね。よく見て、よく聞くのですよ、松宮さん。一緒にすがすがしい気持ちになりましょう」
ピアノの鍵盤が叩かれ、『朝食賛歌』の歌と踊りが始まりました。

ほどなく、あまりの恥ずかしさに耐えかねた松宮は
「やめてくれ。助けてくれ」
と叫びながらドアを何度もたたきはじめます。
ドアはびくともしません。
『朝食賛歌』がサビの部分に入ると、松宮は七転八倒し、泣きだし、失禁し、気絶してしまいました。

曲が終わりました。
すがすがしい表情でたたずむピアニストと2名のダンサー。
湯気をたて、床に横たわりピクピクうごめく肉塊となった松宮を見下ろしながら、佐久間象子は悪態をつきました。
「そりゃわたしの作った『朝食賛歌』はアンタみたいなやつからみりゃ恥ずかしい歌かもしれないけどさ、ここまでひどい反応されたら、ムカつくわね。あんたたち、こいつをやっておしまい!」

やっておしまい、って、ど、どうなるの?


(以下次号)

 

 

   

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2010.09.17 20:26

21世紀神様の悩み 第11話 食育ロボコップ(後編)

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
食育ロボット、アンドリューがメタボセンサー(メタボ発見器)を内蔵し、改造ロボットとなって登場。
メタポリスの新兵器としてメタボ狩りを始めます。
迫害を恐れた市民はアンドリュー・レーダー(アンドリュー探知機)を開発し、食育ロボットの魔の手を逃れようとしました。
追うアンドリュー、逃げる市民。
アンドリューの魔の手が、筆者にも及んできました。

◆◆◆

白昼の赤坂見附。
迫りくるアンドリュー。
その機械の手に握られた、メタボメジャー。

周囲の人々が、どうなることかと我々を見守っています。

アンドリューとの距離が5メートルに縮みます。
ど、どうする筆者?
野生の本能とでもいうのでしょうか、筆者は無意識に、力を入れて腹を引っ込めました。

ペコ。

するとどうでしょう。
アンドリューが妙な動きをしはじめました。
どうやらその、目標を見失ったようなのです。
まるで筆者が見えないかのように、キョロキョロしたりうろうろしたり。
独楽(コマ)のようにくるくる回ったりします。

なんだかよく分からないけど、今だ。
筆者はスタスタと、迷走するアンドリューから遠ざかりました。

◆◆◆

ふたたび、アンドリューとの距離が50メートルくらいになりました。
ふう。
アンドリューから目を離さないようにしながら、一息ついて思わず腹の力を緩める筆者。

ポコ。

ところがです。
腹の力を緩めたとたん、アンドリューが ギン! といった感じで筆者のほうを向きました。
気がついたようです。
小走りに、こっちに近づいてきます。

再び力をこめて腹を引っ込める。
ペコ。
アンドリューが突然、ターゲットを失っておろおろし始めます。

力を入れて腹を引っ込める。
ペコ。
→アンドリュー、迷う。

力を緩める。
ポコ。
→アンドリュー、追いかけてくる。

腹を引き締める。
ペコ。
→アンドリュー、迷う。

腹を緩める。
ポコ。
→アンドリュー、追いかけてくる。

ペコ。→アンドリュー、迷う。
ポコ。→アンドリュー、追いかけてくる。

ペコ。ポコ。
ペコポコ。

そういうことか。
要は、筋肉を緊張させて腹をしっかり引っ込めていれば、アンドリューは来ない。

筆者は腹に力を入れたまま、何分も我慢しました。
そうしているうちに、アンドリューは他の獲物を見つけ、そっちへ走って行きました。

◆◆◆

助かった…。

ところで、もともと筆者は何をしようとしていたかというと。
地下鉄銀座線のなかで財布を掏(す)られました。
その被害届を出しに、交番に行くところだったのです。

アンドリューを完全に撒(ま)いたのを確認すると、ようやく筆者は交番に向かいました。
しかし油断大敵です。
交番の巡査も、メタポリス(メタボ警察)かもしれません。

巡査はキャメロン・ディアス似の若い女性でしたが、案の定、メタポリスのコスチュームを着ていました。
彼女にバレないよう、筆者は慌てて腹部に力を入れました。

ペコ。
小さな音がしました。
それが聞こえたのか、女性巡査は疑いの目で筆者の腹をジロジロと見ています。

「地下鉄のなかでスリにやられたわけですね」
筆者の説明が終わると、巡査は言いました。
彼女のもの欲しげな(?)視線は、筆者のへそのあたりを這っています。
ビミョーなところをジロジロ見られ、思わず赤面する筆者。

「地下鉄のなかでスリにやられたわけですね」
彼女は繰り返しました。
「は、はい」
「財布を盗られたんですね」
「はい」
「財布には、いくら入っていたのですか?」
「5,000円くらいかな」
さっきからずっと腹に力を入れっぱなしなので、筋肉が笑い始めています。

「盗まれたのは財布だけ?」
「だと思うけど…。あっ。あれがない」

不意に気がつきました。
さっきアンドリューとあれほど鬼ごっこを繰り返したというのに、レーダーが反応しなかったですよね。
「ぶるぶるぶるぶる」が起こりませんでした。
おかしいな。
ポケットを探ると、買ったばかりのアレも、なくなっていました。

「新品のアンドリュー・レーダーも取られちゃいました」僕は早口で言いました。「くそー。消費税込で42,000円もしたのに」
「アンドリュー・レーダー?」

◆◆◆

女性巡査の表情が変わるのを見て、筆者はしまった! と思いました。
「いやあの、そうじゃなくて、それがその」
「いま、アンドリュー・レーダーって言ったわね?」
「いやあの、そうじゃなくて、それがその」
「あなたアンドリュー・レーダーが必要な人なのね?」
「いやあの、つまりその」

キャメロン・ディアス似の女性巡査は、ゆっくりと立ちあがりました。
「あなたの腹回りを測らせてもらうわ」
まつ毛がキレイに整えられたその両眼が、筆者の下腹部に吸いついています。

その下腹部ですが。
さっきから力を入れて腹を引っ込ませていました。
しかしそれも、そろそろ筋肉の頑張りが限界に近づいています。
冷汗がたれてきました。

ここで腹の力を緩めるわけにはいきません。
戦え筆者。
しかし、その応援もむなしく消え去ろうとしていました。

ゆっくりながらも慣れた手さばきでメタボメジャーを取り出す彼女。
その美しい顔が、冷酷な喜びに輝きはじめます。

そのとき。
ついに筆者の腹筋が力尽きてしまいました。

ポコ!

隣の駅まで聞こえるような「ありえへん」大きな音がして、筆者の腹がもとに戻りました。

 

(この3部作、完)


(以下次号)


 

 

   

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