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松宮園生です。
ご存じのように、カリフォルニアには日本語を話す人が
たくさんいます。
日本食のレストランもゴマンとあります(※)。
「ロサンゼルスにある日本食レストラン向けに、日本の食材を供給する専門会社」
というのもありまして、なかなか繁盛しております。
(※)全米にある日本料理店の数は約1万店(2007年現在)なので、「ゴマン」は言いすぎか…。
僕の好きな店の1つに
「ミスターシュガー」
というところがありました。
こじんまりとした店です。
シュガー(砂糖)というのは単純なシャレで、店主の名前が「佐藤さん」だからそういう名前になっています。
佐藤さん → ミスターサトウ → ミスター砂糖 → ミスターシュガー
ちなみにこの佐藤さんには、20歳年下の美人の奥さんがいます。
名前通り、甘い生活を送っているのでしょうか。
「ミスターシュガー」は日本風洋食屋でした。
要するに
カレーライス
ハヤシライス
エビフライ定食
カニクリームコロッケ定食
チキンライス
ビーフシチュー
あたりがメニューに載っているような店です。
「ミスターシュガー」が開店した当初は、日本人客ばかりでした。
エビフライだの、カニクリームコロッケだのという、これら「洋食」というやつは、「洋食」と呼ばれる、じつは日本の料理です。
長崎の「トルコライス」みたいなものにいたっては、郷土料理とさえ言えるくらいです。
これらは日本人のために日本人が開発した料理です。
(洋食が一般化したのは大正時代と言われています)
なので、アメリカに住んでる日本人にとっては、故国日本を思わせる懐かしい料理なわけです。
一方、アメリカ人には馴染みのない料理でした。
アメリカにはエビフライもカニクリームコロッケもありません。
なので、「ミスターシュガー」が開店したころ、
「お、また日本料理屋がオープンしたのか」
と思ったアメリカ人が店に入ってみると、イメージしていた日本食とは全然違うものが出てくる。
かといって、アメリカで慣れている料理が出てくるわけでもない。
なんだかよく分からない、不思議な料理が出てくる。
たいそう戸惑ったようです。
というわけで、初めの頃はなかなか客が増えなかったのでした。
そんな「ミスターシュガー」だったので、いわゆる日本食ブームの恩恵を受けることはあまりなかったようです。
それでも真面目に頑張った佐藤さん。
最近はそこそこ人気が出てきたらしく、ときどきは混むこともあったりします。
僕はもっぱらランチタイムによく行きました。
そんなある日のこと。
白人の若者が1人、ヒョコッと店をのぞきこんで言いました。
「おじさん、ランチタイムは何時まで?」
キッチンにいた佐藤さんは答えました。「2時までやってるよ」
「ああそう。じゃ、また来るよ」
そう言って若者は去っていきました。
壁時計に目をやると、まだ12時前でした。
偵察役だったのかな。しばらくしたら仲間を連れて戻ってくるつもりかな。
佐藤さんはそう思ったようですが、その日は結局、若者は戻ってきませんでした。
数日たったころ、同じ若者がまた店に顔を出しました。
「混んでるねえ」彼は言いました。
事実、この日の「ミスターシュガー」はごった返していました。
「今日も2時までやるの?」
若者は周囲の喧噪のなか、佐藤さんに聞こえるように大声で言いました。
佐藤さんも大声で答えました。
「今日は3時まで頑張るかな。悪いがいまは見てのとおり満席だ。2時くらいには空いてくるから、その頃おいでよ」
「分かった。そうする」
言い残して若者は去っていきました。
でも彼は戻ってきませんでした。
さらにその翌週。
ランチタイムでしたが12時前とはいえ客はちらほらでした。
そこに例の若者が現れました。
「空いてるね」彼は言いました。「こんなでも2時までやるの?」
佐藤さんはムッとした表情で
「2時までやるさ。空いてっけど、たまにはこんな日もあるよ」
と言い返します。
若者はあわてました。
「気を悪くしたらごめんなさい。そんなつもりはまったくないんだ。ただ、今日は何時まで開店してるのか知りたくて」
「いつもどおり2時までやるさ。質問ばかりしてないで、食べてってくれよ」
佐藤さんはそう言いましたが、若者の姿はすでにもうありませんでした。
ミスターシュガーの常連客で、日本人の筒井君という留学生が、たまたまそこにいました。
「佐藤さん。何あれ?」筒井君が聞きました。
佐藤さんは首を横に振りながら、「あいつさ、顔だけ出して、閉店時間だけ質問して、食べずに帰ってくんだよ。これで3度目」
「ふうん。変なやつ」
「顔を出してから何をしているんだろうな」佐藤さんは不思議に思いました。「そうだ筒井君、悪いけどあいつの後、つけてみてくれない? いまあんたが食べ終わったオムライス、お代は払わなくていいからさ」
タダメシにつられた筒井君。
さっそく若者のあとをつけました。
しばらくして筒井君はニヤニヤしながら帰ってきました。
佐藤さんは尋ねました。「あいつの行き先、分かったかい?」
「分かったよ」筒井君はあいかわらずニヤニヤしながら答えました。「パイン通り992番地って、ひょっとして佐藤さんの家?」
<参考書籍>
「アメリカ日本食ウォーズ―寿司、豆腐、枝豆、日本酒…いまアメリカでは日本食が大ブーム!」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4751105523
松宮園生です。
僕がサラリーマンだったころの上司に、こういう人がいました。
ラーメン好きで、コショウ好きでした。
「へい、お待ちど!」
てな感じで運ばれてきたラーメン。
彼はまずコショウをかけます。
喋りながらかけます。
延々とかけつづけます。
そのうちラーメンの表面が濃いチャコールグレーに染まるわけですが、そうなって初めて、食べはじめます。
コショウじゃないけど、こんどは醤油の話。
アメリカにも吉野家がありまして。
学生なんかにわりと人気です。
ここでよく見かけるのが、ライスに醤油をかける人です。
それもちょこっとかけるのは分かります。
そうぢゃないんです。
ドボドボとかけます。
喋りながらかけます。
醤油が波打つくらいにかけます。
「イクラの醤油漬け」ならぬ「ごはんの醤油漬け」が出来上がります。
これをうまそうに食べるわけです。
アメリカの寿司屋にもそーゆーのがいます。
上等のスーツを着たエグゼクティブ風の中年男性。
しかし彼の醤油皿にはキ★コ★マンがなみなみと…。
指で弾いたらこぼれそうなくらい、なみなみです。
横から水平に観察すると、表面張力でまん中が盛り上がっています(※)。
(※) この状態にはなぜか名前がついてまして、
「クラウントップ」
というそうです。
この人は握り寿司をこの醤油皿にたっぷり浸します。
醤油は少しこぼれますが、お構いなしです。
で、たっぷり醤油をすった握り寿司を、うまそうに食べるわけです。
書き忘れました。
この人の醤油皿はもうひとつあり、そこにはワサビが盛られています。
クラウントップどころの騒ぎではありません。
山盛りです。
そんなに使うんかい、と思うのですが、使うらしい。
握り寿司にそのワサビをどっさり載せます。
大丈夫かな。
ま、ワサビの品質にもよりますが…。
で、ワサビどっさりの握り寿司を、たっぷり醤油に浸してうまそうにかぶりつく。
「どっさり野菜のたっぷりスープごはん」
は食べたいけど、
「どっさりワサビのたっぷり醤油寿司」
はちょっとなあ。
みんながみんな、こういう食べ方をするわけではありませんが、よく目撃されている食べ方です。
醤油メーカーさんも痛し痒しだろうなあ。
そんな醤油の使い方はしてほしくないだろうし、でもそのおかげで醤油の売上はアップするだろうし…。
<参考図書>
「スシエコノミー」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4532353017
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
小判大介君は天道ゆかりさんと恋に落ち、
農業を始めると同時に結婚しました。
天道ゆかりさんには、結婚を急ぎたい理由がありました。
娘を支配しようとする母親からの逃亡でした。
母親は、ゆかりさんが農家と結婚することにもひどく反対してたのです。
◆◆◆
「私たちの結婚に反対してるんだから、新居まで遊びにくるはず、ないよねー」
ゆかりさんはそう考えていました。
事実、しばらくは母親から何の音沙汰もありませんでしたし、ゆかりさんが母親に連絡することもありませんでした。
ゆかりさんと大介君の2人は、ある意味、安心してイチゴ栽培に没頭しました。
しかし逃亡は長続きしませんでした。
ある日とうとう母親が、2人の住むテケテケ村までやってきたのです。
母親は、何ごともなかったかのような顔で、ふたたび娘を支配しようとしました。
新婚夫婦の「愛の巣」(←書いてて恥ずかしくなる表現ですが)に乗りこみ、細かくチェックを入れはじめました。
ゆかりさんの服。食器。家具。読んでいる雑誌。
あれもこれもケチをつけて回りました。
そのうち大介君のほうにもケチをつけだします。
大介君はわりと今風の青年でございまして、ゆかりママが想像していた農家のイメージとはだいぶ違っていました。
大介君のスタイルはこんな感じ。
ゆかりママが描いていた農家のイメージはこんな感じ。
しかしそれはそれで気にくわなかったらしく、ゆかりさんの母親は大介君に嫌味をいいはじめました。
僕ならこのへんでキレるところですが、キレなかった大介君は立派です。
彼はニコニコと、ゆかりママに接していました。
家のなかのチェックを終えると、母親はティータイムにしたいと言いました。
ゆかりさんは勇気をだして言いました。
「ママ。ティータイムもいいけど、その前に見るものがあるんじゃない?」
「外のビニールハウスのことだったら、興味ありません」察しのよい母親でした。「虫はきらいです」
「娘夫婦が一生懸命にイチゴを作ってるのよ。見てくれてもいいじゃない。そういうところを見てほしいのに」
ゆかりさんと母親は、ビニールハウスを見る見ないで口論しました。
結局、娘の剣幕に母親が珍しく折れて、3人はイチゴを育てているビニールハウスに向かいました。
異変が起きたのはそのときです。
ビニールハウスの入口付近でたまたま草を食んでいた山羊のメリーが、突然、ゆかりさんの母親の頭を後ろ足で蹴ったのです。
メリーはおとなしい山羊のはずでしたが、虫のいどころが悪かったのでしょうか?
ゆかりママは打ちどころが悪く、そのまま帰らぬ人となりました。
◆◆◆
告別式の案内は、当時東京にいた僕のところにも届きました。
告別式はテケテケ村で行われることになっていました。
仕事をいくつかキャンセルし、僕はテケテケ村に向かいました。
東京から7時間もかかりました。
意外にも告別式には大勢の参列者がいました。
ゆかりさんと大介君は、テケテケ村に移り住んでまだ日が浅いです。
ゆかりママは東京から来ています。
この2つを考えると、テケテケ村で告別式をして、参列者が集まるとはとても思えません。
なのでこの人数は不自然でした。
もうひとつ、妙なことがありました。
ゆかりさんと大介君は参列者から次々と声をかけられていたのですが、
女性の参列者は決まってゆかりさんに声をかけ、ゆかりさんは必ずうなずき(=首を縦にふり)、なにか答えていました。
男性は決まって大介君に声をかけ、大介君は必ずかぶりを振り(=首を横にふり)、なにか答えている様子でした。
何の話をしているのでしょう?
さすがにその日はゆっくり話しかけるわけにはいかなかったので、僕はテケテケ村に一泊し、翌朝、大介君を訪問することにしました。
翌朝、大介君のビニールハウスをのぞくと…。
早朝から大介君が歩きまわっていました。
畝(うね)を作っているみたいでした。
昼間はハウスのなかが耐えがたい暑さになるらしく、作業は早朝が多いのだそうです。
僕は彼が作業の手を休めるのを待って、昨日の疑問を口にしました。
すると大介君は言いました。
「あんなにたくさんの人が来るなんて、僕も驚いてます。でも女の人たちは僕のことを胡散臭そうにジロジロ見るばかりで、ぜんぜん話しかけてくれなくて。でもゆかりに対しては同情してくれてるみたいで、『お母様、お気の毒ねえ』なんて言ってくれて、ゆかりもうなずいてお礼を言ったりしてました」
「そっか。それでゆかりさんは何度もうなずいていたわけか。でも男性はみんな、きみ(大介君)に話しかけてたみたいだけど?」
「そうなんです、松宮さん。村の男の人はみんな僕に好意的で、こう言ってくるんですよ。『大変だったね。これからは仲良くしようや、小判ちゃん』。小判ちゃん、て呼ばれてるみたいです」
と、大介君は少しうれしそうに言いました。
「村に溶けこめそうだね」
「はい。義母が亡くなったのは悲しいことですけど、友達が増えました。これで仕事しやすくなるといいんですが」
「きみに話しかけてた男性陣のことだけど、きみは首を振って頼まれごとを何度も断っているようにみえたけど、あれはなに?」
「あれはですね」大介君は答えました。「みんなから、山羊のメリーを何日か貸してくれって言われてたんです。でも断るしかありませんでした。年内は予約でいっぱいになっちゃってて…」
<参考図書>
「やらなきゃ損する農家のマーケティング入門」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4540033204
松宮園生です。
松宮園生の生まれ故郷じゃないか?
という疑惑が持ち上がっているテケテケ村。
知り合いの若者が、そのテケテケ村で農業を始めました。
その若者の名前は、小判大介といいました。
小判君がテケテケ村で始めたのは、イチゴのハウス栽培です。
ついでに山羊を一匹、飼い、メリーというベタな名前をつけました。
彼は農業を始めると同時に結婚するという「離れ業」をやってのけました。
なぜこれが「離れ業」なのかというと…。
農業を始める、ということは、サラリーマン(会社勤め)をやめて独立するということです。
どんな仕事でも、独立した当初は何かとたいへんですので、たいていの人はそのタイミングで結婚することはありません。
仕事が軌道にのって、家族を持てるようになったら結婚する、というのが、まあ普通ですよね。
もちろん、例外はつねにありますけど。
くわえて、農業は「辛く苦しい仕事だ」という一般のイメージが強いので、都会の親たちは自分たちの娘が農家と結婚するのを喜ばない傾向にあります。
これは、就農センターの人たちであったり、農業をしている方々の一部が、
「農業は辛く苦しい仕事だ。お金にもならないし、異性にもモテない。だから覚悟のあるヤツ以外は来るな」
ということをあちこちで言いまわっているせいでもあります。
なぜ自分たちの仕事の悪口を言いまわるのか、その心理には納得できない部分がありますが、ここではその話をするのはやめておきます。
そういうわけで、
* 独立してすぐに結婚したこと
* その仕事が世の親たちに不人気な、農業であること
という2つの理由により、小判君の結婚は「離れ業」だったのです。
愛の力ですね。
2人はふつうに恋愛をして、ふつうに結ばれたのですが、女性のほうの母親は案の定、2人の結婚にあまりいい顔をしませんでした。
とはいえそこは自由の国、日本。
社会的な慣習がどうであるかはさておき、法律上、当人同士が結婚しようと思えば、誰も止めることはできません。
◆◆◆
小判君が結婚したのは、旧姓、天道ゆかりさんという人です。
ゆかりさんの母親は未婚の母でした。
恋多き女性だったらしく、結婚する機会は何度もあったと思われるのですが、とうとう結婚しませんでした。
というわけで、ゆかりさんは自分の父親を知らないまま、母親に育てられました。
ゆかりさんはひとりっ子でした。
つまり、母ひとり、子ひとり、の親子だったわけです。
この母親は典型的な「風と共に去りぬ型」女性のタイプで、東京の西銀座でアパレルショップを経営し、ふつうのサラリーマンよりも贅沢な暮しをしていました。
男性との交際が上手だったのもあり、資金の援助もときどき受けていたようです。
彼女は「子どもを支配したがる母親」のタイプでもあり、ゆかりさんの行動には細かく口をはさんでいました。
たとえば女が生きていくためには「ルックス」と「フェロモン」が欠かせない、というのが母親の持論で、その信念のもとに、ゆかりさんを着せかえ人形のように扱おうとしました。
服も母親がボディコン(←死語)っぽいのを選び、着こなしも母親が決め、化粧品も母親が選び…。
でもゆかりさんは、自分の着たいものを着たい人でした。
思春期以降、ゆかりさんと母親が感情的に衝突することが多かったのも無理はありません。
ゆかりさんが小判君とさっさと結婚したのも、ひとつにはこの母親の支配から早く逃れたかった、というのがあったのかもしれません。
◆◆◆
結婚によって母親の支配から逃れたかったゆかりさん。
当初、その意図は成功したように見えました。
母親の反対を押し切って結婚した結果、母親はしばらくのあいだ娘と会おうとしなかったからです。
しかし結婚してしばらくたったころ。
ゆかりさんの母親から電話がかかってきました。
夫婦の新居を見るために、テケテケ村までやってくるという電話でした。
(以下次号)
<参考書籍>
「農で起業する! 脱サラ農業のススメ」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4806713015
松宮園生です。
食育基本法という法律があります。
2005年にできました。
ふつう法律というと、「決まり事」が書かれていて、
それに背くと懲役とか罰金とかの「罰」が待っているわけですが、
この食育基本法にはそういったことが書かれていません。
なので、だれに何をさせようとしている法律なのかが、ちょっと分かりにくい。
なんとも不思議な法律です。
食育基本法にはいくつもの条文がありますが、
「ひとつくらいは法律らしく『決まり事』と『違反したときの罰則』を作ろう」
と考えた国会議員の働きかけで、2009年になって「決まり事」と「罰則」ができた。
…と想像してください。
以下は想像の世界です。
◆◆◆
で、食育基本法にこういう条文が加わりました。
食育基本法 第xx条
すべての成人は毎日、健康な朝ごはんを食べなければならない。
違反した者は10万円以下の罰金または30日以内の懲役とする。
さて、この法律を実施し、違反者を取り締まるためには、
「健康な朝ごはんとは何か」
を誰かがきちんと定義しないといけません。
でないと、たとえば立ったまま栄養ドリンクを飲んで「朝ごはん終了」だと思っている人は違反しているのか違反していないのか? が判断できませんね。
じゃあだれが定義するか。
それについて農林水産省と厚生労働省とが話し合った結果、
「朝ごはん管理本部(Breakfast Administration Department 略して BAD)」
という組織が国内の有識者を集めて誕生しました。
この BAD が朝ごはんの定義を決めることになりました。
何度も会議を繰り返した末、BAD が定めた朝ごはんの定義はこういうものでした。
* 健康な朝ごはんの「健康」とは、日本・韓国・中国・ギリシャ・インド・スペインのうちどれかの国の伝統的な朝食スタイルに合致すると BAD が認めたものとする。
* 健康な朝ごはんの「朝」とは、午前4時から午前10時30分までとする。
* 健康な朝ごはんの「ごはん」とは、テーブルに向って椅子に座った姿勢で、40kcal/min(分速40キロカロリー)以上のスピードで連続5分以上、合計で480カロリー以上の食物を、経口で摂取する行動のこととする。
複雑怪奇でなんだか分かりにくい文章ですが、まあとにかく、この3つの文章を足し合わせ、「健康な朝ごはん」の定義は最終的にはこうなりました。
「午前4時から午前10時30分のあいだに、日本・韓国・中国・ギリシャ・インド・スペインのうちどれかの国の伝統的な朝食スタイルに合致すると BAD が認めた食物を、40kcal/min(分速40キロカロリー)以上のスピードで連続5分以上、合計で480カロリー以上、経口で摂取する行動のこと」
◆◆◆
定義づけができたのはいいのですが、次は、人々がこの法律を守っているかどうかをどうやってチェックするか、という問題が浮上します。
飲食店で朝ごはんを食べる場合、
1) 朝ごはんを店内で食べた人に、店側が「朝ごはん認定証」を発行する。
2) この認定証を BAD に提出すると、「合格」。
3) 提出できなかった人は違反者
みたいな感じにすればいいわけです。
しかし、そのうち客と店とが結託して架空の認定証を出すようになると、このやり方も張り子の虎になってしまいますね。
家庭で朝ごはんを食べる場合はもっと難しい。
家族が家族に「朝ごはん認定証」を出しても、BAD としては、本当に食べたかどうか、素直に信じられないからです。
この問題について BAD は徹夜の会議を繰り返し、このように決めました。
前の日の夜中12時までに、
「翌朝の朝ごはんを何時にどこで食べるか」
を地元の役所に申告する。
その申告を受け、役所側は監視ロボット(子犬型)を朝ごはんの現場に送る。
で、本当に食べているかどうかを確認する。
なお、申告しなかった(=申告漏れ)場合は追徴金。
朝ごはんを食べる場所ですが、自宅で食べる人、飲食店で食べる人、オフィスで食べる人、など、さまざまです。
したがって、子犬の姿をした監視ロボットはそのさまざまな場所に出向き、尻尾を振りながら朝ごはんのチェックをするわけです。
監視ロボットの電子頭脳には、
「午前4時から午前10時30分のあいだに、日本・韓国・中国・ギリシャ・インド・スペインのうちどれかの国の伝統的な朝食スタイルに合致すると BAD が認めた食物を、40kcal/min(分速40キロカロリー)以上のスピードで連続5分以上、合計で480カロリー以上、経口で摂取する行動のこと」
がちゃんとインプットされています。
なお、監視ロボットの数には限りがあるので、全員の監視をするわけにはいきません。
なので、監視ロボットはランダムに派遣されることになりました。
つまり監視ロボットは来たり来なかったりする。
来るか来ないかは予測ができないため、たいがいの人は申告したとおりに真面目に朝ごはんを食べるようになりました。
◆◆◆
実をいうと、朝ごはんを食べるべきなのか、食べないほうがいいのか、どっちが健康に良いのか、専門家のあいだでも意見が分かれています。
以前、
「朝ごはん派」
「アンチ朝ごはん派」
が出版している本の数を調べてみたら、ほぼ同数でした。
このアンチ朝ごはん派の人々が、食育基本法の「朝ごはん条文」に反対して
「アンチ朝ごはん党(Party Against Asagohan 略して PAA)」
を結成しました。
PAAには夜更かしの人が多かったのですが、それと比例してアーティストなんかも多く加わっています。
そのアーティストたちが作ったシングル曲
「朝は出すだけ」
がミリオンセラーとなり、PAA は財政的に潤いました。
そのお金を元手に、形勢逆転を図ります。
PAA は、次の総選挙で過半数を取り、食育基本法を廃案にすることをマニフェストに掲げました。
過半数を取れなかった場合は、アンチ朝ごはん派だけを集めて独立国家を建てることも検討していると噂されており、社会は不穏な空気に包まれています。
◆◆◆
それはともかく、このようにして、国民皆兵ならぬ「国民皆朝ごはん」の時代が幕を開けたのでした。
<まとめ>
この法律ができて、損したところ
* ○○製薬(カ○○○メイトが朝ごはんとして認められず、売上激減)
* 飲食店(朝ごはんを食べる人は増えたが、夜遅くまで酒を飲む人が減り、トータルでは売上が落ちた)
* 電力会社(夜更かしする人が減った)
* コンビニ(深夜の客が減った)
儲かったところ
* わり箸メーカー
* ロボットメーカー
* 管理栄養士(レシピ作成の依頼が増えた)
* 時計メーカー(目覚まし時計がバカ売れ)
* 精神科医(患者が増えた)
<関連図書>
「ティファニーで朝食を」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/410209508X